眠気最高”魔の時間”だった

第一回は眠りにつくのには体温低下が重要であることを説明しましたが、
今回は眠気と体温、 今年二月のイージス艦事故との関連について解説します。
イージス艦の衝突事故は午前4時7分に起きました。
その一分前までイージス艦の乗員はことの重大さに気づかなかったのです。
この事故をヒトの眠気と体温リズムから見ると事故の必然性がわかってきます。

図は友人のラビエ先生が、
ヒトの眠気と体温のリズムを大学生約120人で調べたものです。
ヒトの眠気は午後2時~4時と午前2時~4時の二つのピークがあります。
特に午前二時からの眠気はとても強いものです。
徹夜の際、明け方のどうしようもなく眠い時間がこれにあたります。

m.k2

居眠り運転による交通事故の多発時刻を見ると、
この午前3時前後に大きなピークがあり、
午後3時前後にも小さなピークがあります。
これは、眠気の強さ曲線と良く一致しています。
大事故は夜明け前に起こるといわれますが、
チェルノブイリやスリーマイル島原発事故、
世界的な石油企業エクソンが経営不振に陥る原因になった
アラスカ沖タンカー座礁事故もこの時間帯に起きています。

一方、ヒトの体温はどうでしょう。
体温は朝から徐々に上昇して午後4時ころから眠る直前までが、
一日のなかで最も高くなっています。
その後体温はピークを過ぎて低下、
午前4時ころには最点に達します。
これで、なぜ午前4時すぎに事故が起きやすいか推測できますね。
眠気がもっとも強く、
体温が低下して身体が思うように動かない時間帯だからです。
しかし、この体温と覚醒リズムを有効活用することができます。
午後5時から9時までは眠気が最も少ない。
いいかえればヒトが最も覚醒している時間帯です。
体温が高く、覚醒度が高い(交感神経が活性化)ということは、
スポーツをするにはもっとも適した時間帯なのです。
陸上の世界記録がこの時間帯に多く出ています。
以前、「5時から男」という有名なキャッチコピーがありましたが、
これは仕事が終わって五時から飲みに行くため元気になるという意味ではなく、
本来この時間帯がヒトの覚醒度が高くなり、
仕事に集中できることを意味しています。

皆さん!睡眠のメカニズムを正しく理解して、
安全に働くためにぐっすりとお眠りください。

 

出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために②」 『京都新聞』 2008年4月8日


カテゴリー: 睡眠健康大学 【講義リスト】