睡眠の病気で多いのは、
睡眠時無呼吸症候群を中心とする睡眠呼吸障害ですが、
私がいま最も問題だと感じているのは「睡眠不足症候群」です。
睡眠不足症候群とは、
簡単にいえば睡眠不足が原因で眠気やいびき、イライラ、気力減退、
ミスしやすい等を併発する病気です。
睡眠外来では10人に1人ぐらいの割合に増えています。
仕事に追われて
名古屋の田中さん(50歳、営業所所長、仮名)は、
数年前よりぐっすり眠れず、朝から眠い状態が続いていました。
車の運転中も強い眠気に襲われるので、路肩に車を寄せて10分程度眠っていました。
あるとき、大阪で重要な仕事があるのに、
新幹線でつい眠りこんでしまい岡山まで乗り過ごしてしまいました。
慌てて上りの列車に乗車して引き返したのですが、
気づいた時には再び新大阪を過ぎ、名古屋まで戻っていました。
簡易の睡眠呼吸検査で、
無呼吸+低呼吸指数が14回/時間であったので、
睡眠時無呼吸症候群の治療に使われる鼻マスクの治療器(シーパップ)を自己判断で試してみました。
実は、田中さんはシーパップを無呼吸患者さんたちにレンタルしているのです。
シーパップをしてみると、少しは眠気が改善したように感じました。
しかし、周囲から見るといつも眠っているので、同僚から睡眠クリニックの受診を勧められました。
田中さんの睡眠日誌をみると、平日、休日ともに、23時就寝、5時に起床しますが、
夜間に2~3時間も目覚めており、
平均すると4時間程度しか眠れていませんでした。
また休みの日には、3時間以上もの長い昼寝をしていました。
生活環境をお聞きすると、夜9時以降も蛍光灯の明るい部屋で過し、
仕事のためにパソコンや携帯電話を操作しているとのこと。
また、色々と悩みもあり、深夜まで考え込むことが多いとのこと。
そこで、夜9時以降は部屋の明るさを半分程度に暗くすること、
眠るために飲酒をしないこと、
朝食に納豆やハムエッグ等の蛋白質を必ず摂るようにお願いしました。
3週間後には、表情も軽くなり、眠気もかなり改善しました。
眠気は指導前の19点から11点まで減少(正常10点以下)、
うつスケールは41点から33点に減少(正常35点)、
睡眠の質も8点から4点に改善(5点以下が正常)しました。
いびきや無呼吸もなくなったとのことです。
12時前には寝る
また、次のような例もあります。
54歳の女性で、30歳ぐらいのときから自分のいびきで目が覚める、
日中の眠気が強いという症状があり、当病院の睡眠外来を受診しました。
この方はいつも午前2時ごろまで起きていて、
日によっては8時まで寝ていることもあるそうですが、
ふだんは弁当を作るために6時には起きなければいけません。
そのため睡眠時間はいつも4~6時間程度でした。
そこで睡眠日誌をつけてもらい、「12時前には寝てください」とお願いしました。
睡眠時間を6~7時間とるようにしたところ、日中の眠気が消えていびきもかかなくなりました。
この女性は、子どもを塾に迎えに行くために、
午後11時ごろまでテレビを見たりパソコンをやったりしていたそうです。
それで脳が活性化してしまい、就寝が午前2時ごろになってしまう。
それなのに朝は早く起きなければいけないから睡眠が不足する……。
自分の行動・生活習慣が原因で眠くなるので、本来は病気ともいえないかもしれません。
遅くまで起きていて睡眠時間が足りず、
そのため昼間に眠かったり、いらいらしたり、決断ができなかったり、
授業中に居眠りしたり仕事の能率が上がらない……。
じつは今、こんな睡眠不足症候群が社会に蔓延しているのです。
皆さんも眠気が強い場合には、まずは睡眠時間が十分かチェックしてみてください。
「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年11月12日」