すべての生物は、たとえ原始的な微生物であったとしても、
昼夜の変動に対応した活動と休息の周期が見られます。
生物の進化とともに、休息の方法も進化し、
高度な機能を持つレム睡眠とノンレム睡眠が出現したのです。
脊椎動物では、海にすむ魚類にはじまり、
水陸両方にすむカエルなどの両生類、そして爬虫類をへて、
鳥類、人間などの哺乳類に数億年かけて進化しました。
レムとノンレムに分化した睡眠(真睡眠)があるのは、
鳥類や哺乳類など、体温が一定の恒温性の高等脊椎動物だけです。
魚類と両生類の睡眠は、覚醒時と違うきちんとした脳波が記録されません(原始睡眠)。
爬虫類はいくぶん鳥類や哺乳類に似た脳波があるのですが、
明確なレム・ノンレム睡眠がありません(中間睡眠)。
そのため、原始睡眠と中間睡眠は、脳波で定義できず、行動睡眠とも呼ばれます。
行動睡眠から真睡眠への進化は、大脳の発達と密接に関係しています。
脳は血圧や脈拍、呼吸など、生きるために働く脳幹と、
目や耳から入った情報を処理し、手足を使った行動に移す大脳に分かれます。
鳥類や哺乳類の場合、生命維持装置である脳幹の睡眠中枢が、
能動的にレム睡眠、ノンレム睡眠を作り出します。
レム睡眠で筋肉を動観させることで、体を休ませ、
夢などの機能を通して大脳を活性化するのです。
そして脳が疲弊しないようにノンレム睡眠が大脳を休息させます。
脳幹は、眠らせるために働いている脳で、睡眠で寝ているのは実は大脳だけです。
大脳は休むことで、疲弊せずに覚醒時に最大限に活用できるのです。
進化論的には、ノンレム睡眠の獲得が、今日の人間の文明を作り上げたのです。
体温が下がると眠くなり、暑すぎると眠りが悪くなるように、
睡眠と体温は相互に影響し合います。
これは睡眠が、体混調整機構の発達に並行して進化したからです。
人聞がもし、環境により体温が変わる爬虫類以下の変温動物に見られるような、
冬眠という形の睡眠段階にとどまっていたら、生産活動の継続は困難です。
人間などの高等脊椎動物は、ノンレム睡眠の獲得と同時に、
体温が一定の恒温動物に進化したことで、神経系が常時安定して働けるようになり、
大脳も発達して大きくなったのです。
出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 5」 『琉球新報』 2008年5月27日