睡眠や睡眠様の静止化の状態(行動睡眠)は、
あらゆる生物にみられる普遍的な現象です。
動物はどんな寝相や方法であれ、睡眠をとるようになっています。
しかし、なぜ寝ないといけないのでしょうか。
人間も人生の約三分の一を睡眠に費やしますが、これは無駄なことでしょうか。
睡眠は、目覚めている聞に生じた体の疲労をとるためと思われがちですが、
動かずに安静にした方が、睡眠よりエネルギーの消費量は少ないのです。
安静だけでは、単純な身体運動能力は回復しても、
疲労感や思考能力など脳の働きは回復しないことが明らかになっています。
身体疲労は安静でとれても、脳の疲労は寝ないと回復しないわけです。
人間や動物の実験結果などから近年、 睡眠の主な目的は「脳の休息」との考えが有力です。
睡眠の役割を知るため、眠らせないとどうなるかをみる「断眠実験」があります。
これには、連続して寝かせない方法(完全断眠)と、
一日の睡眠時聞を短くする方法(部分断眠)があります。
人間の完全断眠実験で最も長いのは、ギネスブックにも載っています。
1964年、米国の高校生ランディー・ガードナーが 医師や友人の支援の下で行った実験がそれで、
記録は264時間12分(約11日)です。
断眠開始後、日がたつにつれ集中力が低下、情緒が不安定になり、幻覚が出現しました。
運動機能に大きな異常はみられませんでしたが、言語は不明瞭になり、
簡単な計算が困難になりました。
最後は無表情となり、 観察者が刺激を与えないと数秒でも寝てしまう状態(マイクロ睡眠)が現れ、
実験は中止しています。
実験中断後は、いつもより約七時間長い十四時間四十五分寝て、
その後は二日程度で元の状態に回復しています。
十四日間、毎日二時間少なく寝かせる部分断眠の実験では、認知能力、作業能力が、
三日間連続して寝なかったグループと同程度にまで低下しました。
しかし、本人は能力が低下したという自覚がほとんどなかったということです。
日常生活でも、睡眠不足が進むと、気分や感情、認知能力などがすべて低下します。
抑うつ的になるなど、幸福感も低下します。
これらはすべて脳の働きであり、寝ないと脳の働きが悪くなるという証拠です。
出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 9」 『琉球新報』 2008年6月24日