夢も生存の基盤

夢とは一体何だろう、と思ったことはありませんか?
広辞苑で引くと夢は
『イメ(夢目)から転じ、睡眠中もつ幻覚。普通目覚めた後に意識される。
多くは視覚的な性質を帯びるが、聴覚・味覚・運動感覚に関するものもある』
と定義されています。
この定義でいくと目覚めた後に自覚されないと、
夢とはいえないので夢をほとんど見ないという人もいるわけです。
しかし現在では「誰でも毎夜夢を見ているが、単に覚えていないことが多い」
とする説が有力です。
印象に残る出来事や怖い夢は目覚めた後も覚えていることが多く、
単純で意味の少ない内容は忘れられるものです。
夢をすべて覚えていると現実との区別ができなくなり、
危険な状態となるので、意味のないものは脳が覚えないようにしている
とも解釈できます。

夢は当初、レム睡眠だけに見られるとされていましたが、
その後睡眠中のあらゆる段階で起こるとされています。
8時間寝ると一娩に90分程度は夢を見ているとされ、
人生を70年とするとその間およそ23年は眠り、
5年間は夢を見ていることになります。

それではなぜ、人は夢を見るのでしょうか。
”夢は神のお告げ”という考え方は古くからあり、
現代でもある文化や一部の人たちには根強く受け入れられています。
百年前にフロイトは『夢判断』で、
起きているときには自己検閲で抑えられている
潜在意識の欲望から夢は生まれるとし、
精神医学だけでなく社会的にも大きな影響を与えました。
しかし、現在ではフロイトの理論はおおむね否定されています。

夢の役割については
①神経の発達・維持管理
②記憶
③不必要なことを消去して忘れさせる
④日中の行為の学習
⑤新しいことの創造
などが挙げられています。
このほか、夢の中で夢を見る、
あるいは夢を見ている自覚があり、
かつ夢の内容を自由に変えることができる明晰夢があります。
この場合、夢の中で意識があり、
夢と意識が密接に関係していることを示しています。

脳は夢でも目覚めているときと同じシステムで働いています。
夢と覚醒の違いは、外界からの刺激有無、
過去の記憶や経験がランダムなのか整合性のある組み合わせなのか、
判断能力の有無などです。
覚醒水準が異なるだけで、夢は覚醒の続きとする考えもあります。
夢の役割についてはまだ明確な結論はありませんが、
睡眠や夢が人間の生存の基盤であることに異論はないでしょう。

出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 29」 『琉球新報』 2008年12月15日


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