おはこ寿司(仮名)のマスター(60)は近ごろ眠れなくて困っていた。
この不況の中、お客さんの出足が少ないからである。
しかし、くよくよしても仕方がないと考えを前向きに改め、
昼の空いた時間を利用して、
近くの山にワラビやウドを採りに出掛けるようにした。
すると夜は適度に疲れて知らない間に眠れるようになっていた。
豊田さん(78)=同、女性=は、自営業の夫を亡くしてから、
寝付きが悪くなり、夜中に目が覚めて眠れなくなったと睡眠外来を受診。
夫が健在のころは世話で忙しくて、いつもパタンキューで眠っていたが、
夫を亡くし長男の家に身を寄せてから眠れなくなった。
次男の家に行ったときには、
孫の世話で忙しくてよく眠れるという。
豊田さんには、
「仕事がなくなり、あまり動かなくなった不眠の原因でしょう。
積極的に外出して、 ボランティア活動などに精を出すようにすると眠れるようになりますよ」
と助言した。
悩み事やストレスを抱えているときには眠れなくなる。
一方、よく働いた日はぐっすりと眠れる。
睡眠は適応のための技術である。
体の内部環境(ストレス、体温)や外部環境(昼夜、季節)に合わせて脳をうまく休ませ、
翌日、よりよく活動するための生理機構が睡眠である。
睡眠時には意識レベルが低下し、 筋肉が緩むため、
安全が確保された状態でないと人は眠ることができない。
また、眠れないということを心配し過ぎると、
何とか眠ろうと思うあまり、
逆に心身の緊張感を高め、不眠をこじらせてしまう。
眠りに対して気にし過ぎないことが眠れることにつながる。
「一粒の眠り薬を友としてあくる日までの安らぎうれし」
これは、京都祇園のお茶屋のおかみさんからいただいた句である。
彼女は八十四歳とは思えない若さと頭の回転の良さで、
肌はつやつやとしていた。
健康の秘訣を聞いたところ、
毎晩、睡眠薬を半錠ずつ飲んでぐっすり眠っているとのこと。
眠れないまま布団の中で、
どうして眠れないのか、どうしたら眠れるようになるのか、
と思っているとかえって眠れなくなる。
寝酒は、むしろ睡眠を阻害することは「寝酒 朝の目覚めに悪影響」で紹介した。
お酒は常習性が強く、 どんどん量が増えていく恐れがある。
眠れないときには、
まずは昼間に適度に活動してみることや、
眠る前に肩や首の回りのストレッチを試してはいかがであろうか。
主治医の先生と相談して、
寝酒ではなく睡眠薬を服用してみることも
不眠をこじらせないために大切である。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議14」 『秋田魁新報』 2009年5月11日