私の友人、ロバート・アボットの実話です。
彼は昨年、滋賀医科大の客員教授として大津に滞在していました。
ロバートの専門は、病気の原因を睡眠と統計学の観点から明りかにしていくことです。
ロバートがある日ひどい下痢になりました。
彼は胃の中の細菌を殺すためには、
辛いキムチを食べると良いかと考え、食べ続けました。
しかし、下痢はなおらず、体重が五キロ以上減りました。
かかりつけ医に診てもらったところ、
キムチは食べないこと、
チキンスープを飲むこと、
コーヒーを止めるように指導されました。
ロバートは長年高血圧の薬を飲んでいましたが、
下痢を境に、収縮期血圧が十ミリ以上下がりました。
体重減少で下がったのかと考えましたが、
体重が元に戻った後も血庄は下がったままでした。
血圧が下がったままなのは、なぜでしょう。
以前と異なっている点と言えば、コーヒーをやめたままだったのです。
コーヒーを飲まなくなって、寝つきが良くなり、
朝の目覚めが爽やかになったことにロバートはきづいていました。
コーヒーは、エチオピアのヤギ飼いが偶然、発見したといわれています。
ヤギが、コーヒーの実を食べると踊り出すことから、
その覚醒作用に気付いたのです。
コーヒーの覚醒作用は珍重され、
アラビアに最初のコーヒーショップができてから数年でヨーロッパ全域に広がったのです。
疲れてくると、睡眠物質が脳内に溜まり、
眠気を起こす部位に作用します。
ところが、コーヒーに含まれるカフェインはこの部位に競合的に作用して、
人を覚醒させるのです。
カフェインは脳の代謝を高め、脳活動を刺激します。
また用量依存性があり、用量が多いほど覚醒効果は強くなります。
カフェインは様々な飲み物に含まれており、
その量は、本格的なコーヒーで130~150㍉㌘、
インスタントコーヒーは65㍉㌘、
紅茶は40~60㍉㌘、
コーラで30~50㍉㌘です。
カフェインは入眠を遅らせ、睡眠時間を減らし、
中途覚醒を増やします。
やや多め(400㍉㌘)にとると、
睡眠中の代謝率が高まり、浅い眠りが増え、
深い睡眠が減って睡眠障害となってしまいます。
その効果は四時間以上持続します。
あまり豆を煎ってないアメリカンコーヒーは薄いように感じますが、
よく焙煎した香りの良いコーヒーに比べてカフェイン量が多いことをご存知ですか。
アメリカ人はよく目覚めて働くために、
カフェインの多いアメリカンコーヒーを好むのでしょうか。
出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために⑫」 『京都新聞』 2008年6月17日