ねぶり流しと睡眠 熱で脳の活動が低下

秋田市大町に「秋田市民俗芸能伝承館」(ねぶり流し館)がある。
最近、私は同館を訪れて、
秋田の夏祭り「竿燈」が昭和初期まで「ねぶり流し」と呼ばれていたことを知り、
「竿燈」が睡眠と深い関係にあることに感銘した。

秋田では眠いことを「ねふて」「ねぶて」といい、
青森では「ネンプテ」がなまって「ネブタ」、
弘前では「ネプタ」になったという説がある。
能代の夏祭りは「ねぶ流し」と呼ばれている。
これらの祭事の意味は、
真夏の昼間に襲ってくる睡魔を追い払うため、
ネムノキの枝を水に流す「ネムリナガシ」に由来している。
本来のねぶり流しは、
このどうしようもない眠気を払うために水浴びをしたり、
火をたき、太鼓をたたいて灯篭を流すことで、
眠りを追い払う形であったとのことである。

夏はなぜ、だるくて眠いのか。
暑いとだるく頭がぼーっとするのは、 体に熱がたまるせいである。
コンピューターも酷使すると熱くなって働きが悪くなるように、
脳の温度も上がるとぼーっとしてしまう。

体の熱を放散するためには、
体表面の血管を拡張して深部の熱を肌に伝え、 汗として出す。
汗が蒸発するときに気化熱が奪われて体が冷える。
しかし、
夏は高温多湿であるので発汗による体温低下がそれほど期待できず、
体に熱がこもりやすい。
このようなときは、涼しい木陰で昼寝をして、
体をクールダウンするのが一番である。

昼食後に眠くなるのは、 食事の影響もあるが、
人間の眠気が半日リズムでこの時間帯(午後2~3時)に強まるからである。
これは、 人間の祖先がもともと熱帯に住んでいたため、
気温の高い時間帯に体の動きを低下させて
暑さをやり過ごすための生理機能ではないかと推測されている。

夜になっても外気温が高いと、
熱放散がうまくいかず、寝付きや、睡眠が悪くなる。
さらに、
夏には日照時聞が長くなり、
元気の源であるセロトニンホルモン活性が高まって人は行動的になり、
睡眠時間が短くなるため、 昼間に眠くなる。

ヘビやカメのように、
自分で体温を調節できない変温動物は、
昼間に気温が上がってくると活動でき、
夜間に気温が下がると活動できなくなる。
それに対し、
人聞は自身で産熱し、 体温を維持することができるので、
気温に影響されないとされるが、
それでも外気温にはかなりの影響を受けるのだ。

 

出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議24」 『秋田魁新報』 2009年7月27日


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