数年前から、教育現場では
「早寝、早起き、朝ごはん」運動が全国的に展開されている。
朝は体温が低く、 脳が十分に機能できない状態である。
脳を働かせるエネルギー(糖質)を朝食で取り込むことで、
体温を上げ、脳を働かせ、消化管の活動が促される。
食事のときに咀嚼するあごの動きも脳の活性につながる。
規則的な朝食は、 体のリズムを整え、ひいては自然な良い睡眠につながる。
良い睡眠のためには、
食事面でどのような点に気を配ればよいのであろうか。
第七回で紹介した眠気を誘う作用のあるメラトニンは、
トリプトファンというアミノ酸を原料に、 セロトニンを経て合成される。
トリプトファンは必須アミノ酸といわれ、
体内で合成することができないので、食物から取るしかない。
トリプトファンから最初に作られるセロトニンは、
脳や脊髄で情報を伝える神経伝達物質のひとつである。
この物質は、私たちのやる気や元気の源となるセロトニン神経を活性化する。
具体的には、精神安定や、催眠、鎮静・鎮痛作用があり、
うつ病や神経症などにも良い効果をもたらす。
高知大学の原田哲夫准教授の調査では、
トリプトファンの摂取量が少ない乳幼児ほど、
怒ったり落ち込んだりといった気性の変化が多く見られた。
またこの子どもたちは、寝付きや、寝起きも不良であった。
朝食にトリプトファンを取ることでセロトニンが増えれば、
セロトニン神経が活性化され、
イライラするとなくやる気にあふれ、
楽しく過ごすことができる。
そして、夜にはセロトニンが睡眠を促すメラトニンに変わり、
ぐっすりと眠ることができる。
食べ物から摂取するトリプトファンの量が少ないと、
セロトニンの生成量が少なくなり、
結果的にメラトニンの分泌が少なくなる。
つまり、トリプトファンを取る量が少ないと寝付きや寝起きが悪くなる可能性がある。
元気物質のセロトニン、
眠りをもたらすメラトニンの原料である
トリプトファンはどのような食物に合まれているのか。
納豆や干物、魚や肉、卵などに多く合まれ、
いわゆる、和定食やハムエッグ定食を食べていればよいわけである。
野菜サラダや、ジュースにはあまり含まれていない。
朝食をバランスよくしっかり取ることが大切である。
昨年九月に訪れたスコットランドでは
朝からステーキが準備されていて驚いたが、
しっかり働いてよく眠るためには合理的な食事であろうか。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議12」 『秋田魁新報』 2009年4月27日