眠りは誰にとっても大切なものです。
皆さんが、良い睡眠で快適な生活を送れるように半年間連載で考えていきます。
適度な運動が良い睡眠につながることは皆さんご存知ですね。
昼間良く動いた日は、夜ぐっすり眠れます。
しかし、エアロビクスなどの激しい運動を不適切な時間に行うと睡眠が妨げられ、
不眠になることがあります。
三十七歳の鈴木さんは最近エアロビを始めました。
運動する機会が少なかったので、
健康増進のためと仕事が終わってからエアロビ教室に通うようにしました。
夜9時以降は会費も安いので好都合です。
しかし、数日すると昼間とても眠くなりした。
同僚が見ると朝から居眠りしています。
なぜ、エアロビを始めてから昼間眠くなったのでしょう。
これを理解するには睡眠のメカニズムを知っておくと合点がいきます。
体温は朝から徐々に上昇して午後4時ころから眠る前に、
一日で最も高くなります。
その後、眠気が増大し、
体温の下降とともに寝付きます。
これはヒトの眠りの準備なのです。
冬山で遭難した時に
「眠ると死ぬぞ」といわれますが、
体温の低下が眠りを誘発します。
では、鈴木さんの居眠りの話に戻ります。
午後9時からエアロビで汗を流すとどうなりますか。
本来は眠くなり、
体温が低下して眠りにつくはずのところに、
激しい運動で交感神経が刺激され、
眠気はなくなり、
体温は低下するどころか上昇してしまいます。
そのため、いつもの時刻に布団に入ったとしても、
体温が下がって眠くなるのに時間を要し、
入眠時刻が遅くなってしまいます。
朝は出勤のためいつもの時間に起きなければならないので、
睡眠時間が短くなります。
鈴木さんは、
健康になろうとしてエアロビを始めたのですが、
不適切な時間に運動したために体温が上昇して眠りが障害され、
結果的に睡眠不足で居眠りの原因となっていたのです。
最近の研究で、良い睡眠を得るのには、
運動を朝や夕方にするより、
夕食後あまり遅くない時間帯の適度な運動が体温と睡眠の関係から、
もっとも有効であることがわかっています。
運動も時間帯を考えて行うと、
良い睡眠がとれて快適ライフを送れます。
出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために①」 『京都新聞』 2008年4月1日