いろいろな動物の寝相を見ていると「睡眠とは何か」
との問いに簡単に答えられそうな気になります。
しかし、実は難しいのです。
ギリシャ神話で、睡眠(ソムナス)と死(タナトス)は、
夜の神から生まれた双子で、
睡眠は毎日起こる短い死とされています。
一方、睡眠は生と死の中間の状態との見方もありました。
睡眠は有史以来、神話や宗教、文学などでも
興味を持って取り上げられています。
しかし、睡眠の状態が、気を失っているのか、タヌキ寝入りなのか
、 催眠状態なのか、厳密な定義はありませんでした。
近代に入り、研究上の必要性もあって、
睡眠は動物の行動上の特徴を用いて次のように定義されました。
①じっとしていて自発的・随意的な活動が低下あるいは消失している。
②周囲からの刺激に対する反応が低下している。
しかし、揺り動かすなど強く刺激するといつでも覚醒する。(可逆性)
③夜か昼のどちらかで、周期的にほぼ毎日起こる。
④動物によってほぼ一定の姿勢があり、決まった寝床・巣を持つなどです。
これを行動睡眠といいます。
行動睡眠による判断は、人間などの晴乳類や鳥類といった高等動物では 比較的容易です。
しかし、昆虫など下等動物になると違います。
例えば、ナメクジやハエは、寝ているのか、
単に動かずに静かにしているだけなのか、判断は困難です。
主観的な判断基準に頼っていた時代の睡眠研究は、
フロイトの夢分析など心理学的なものが多く、
睡眠そのものの研究は遅々としたものでした。
しかし、第二次世界大戦を契機として、レーダーなど計測機器が進歩し、
脳波記録が容易になると、科学的な測定に基づく睡眠の定義が登場しました。
1953年、シカゴ大学のクレイトマンとアセリンスキーらが、
人間のレム睡眠を発見し、脳波や眼球の動き(眼球運動図)、
筋肉の動き(筋電図)など、睡眠の客観的指標ができたのです。
これを脳波睡眠といいます。
以降、約50年間で睡眠学は急速な発展を遂げます。
睡眠の重要性と学問上の影響の大きさをみると、
レム睡眠の発見はノーベル賞級の業績と思われますが
、 残念ながら受賞はしていません。
睡眠の意義が、学問の世界でも
まだそれほど評価されていない証左なのかもしれません。
出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 2」 『琉球新報』 2008年4月22日