近年、肥満の増加やメタボリック症候群などの概念が 一般に普及したことで、
運動や栄養に関する認識が高まってます。
食べ物だけではなく、サプリメントの市場も拡大しています。
公園などで自発的にジョギングしたり、
会費を払ってスポーツクラブに通っている人も少なくありません。
栄養や運動についての知識は、学校教育にも組み込まれ、
社会でも栄養士や運動療法士が活躍しています。
四月からはメタボリック症候群の対策で特定健診が始まり、
国をあげて栄養や運動の指導などに力を入れることになっています。
しかし睡眠についてはどうでしょうか?
チェルノブイリ原発事故やスペースシャトルのチャレンジャー爆発事故など、
社会的に大きな損害を与えた事故が、
突き詰めると職員の睡眠不足に起因することが知られています。
2003年の新幹線の居眠り運転も、
睡眠の質を悪くする睡眠時無呼吸症候群が原因でした。
睡眠不足や睡眠障害に起因する居眠りは、
ほかの疾患と違い、個人の問題では終わりません。
交通事故や労災事故の原因となり、社会的にも多大な損害を及ぼします。
ところが、睡眠の重要性を強調する声は大きくありません。
肉体的な疲労は安静でもとれますが、
精神的な疲労の回復や脳の活性化には、睡眠が不可欠です。
良い睡眠は健康の第一条件なのです。
しかし、現実にはエジソンの電球の発明や産業構造の変化、交代制勤務、
テレビやインターネットの出現で、睡眠時間は短くなり、
何かあると睡眠を犠牲にするのが常態化した社会となっています。
最近は睡眠時無呼吸症候群を中心に、
マスメディアに取り上げられることも多くなっていますが、
学校教育だげではなく、医学教育でも、
睡眠に対する取り組みはまだ十分ではありません。
睡眠の知識を一般市民ヘ普及する活動も遅れています。
これは睡眠学が若い学問であることにも起因していますが、
近年の睡眠学の進歩は目覚ましいほど大きな成果を挙げています。
連載では、睡眠学の新しい知見を取り入れ、
睡眠の役割や過眠、不眠、それにかかわる疾患と治療法に
ついてお話ししたいと思います。
最後は夢の不思議に迫り、夢のある話で終わりたいです。
出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 1」 『琉球新報』 2008年4月15日