ある番組で、夜の水族館のマグロの睡眠が紹介されていた。
回遊式の大きな水槽を止まることなく高速で泳ぎ続けるマグロが、
夜になるとごく短時間(4~5秒)であるが
急にスピードを落とし水槽の下の方に沈んでいった。
これを睡眠様状態、または行動睡眠という。
体長1.5Mもあるマグロの脳は、実はビー玉程度の大きさであり、
睡眠の必要性が少ないためと推測される。
一方、人の脳は1200グラム以上もあり、
人により異なるが少なくとも7時間前後の睡眠を必要とする。
睡眠学者の井上昌次郎・東京医科歯科大名誉教授は
「脳が発達すると、睡眠が発達する。
睡眠が発達すると、脳が発達する」
と述べているのは至言である。
また、ある水族館で撮影されたマナティー(イルカの仲間)のビデオを見る機会があった。
マナティーが水槽の底に沈んで来て、
反転しておなかを上にして眠ってしまった。
右目は開いているが、左目は閉じた状態であり、
ヒレも右側だけ動かしていた。
イルカが片目で泳ぐことは、1964年に記録されている。
ロシアの研究者は70年代にイルカの睡眠脳波を測定した。
その結果、イルカは脳の半分を交互に、
1~3時間の間隔で眠らせていることが分かった。
イルカはヒトと同じく空気を呼吸するので、
もし水中で眠り込んだらおぼれ死ぬことになる。
このような半球睡眠は、
クジラ、アザラシ、オットセイでも確認されている。
鳥類にも半球睡眠が広く認められている。
海上をずっと飛び続けるアホウドリにねぐらはないが、
半球睡眠していることが分かっている。
ツバメは毎年春に長距離飛行をして渡って来るが、
夜間にも飛行していることがヨーロッパのレーダー観測で知られている。
また、鳥類の半球睡眠は外敵から身を守るためにも役立つと考えられている。
止まり木に並んだ4羽のマガモの睡眠をビデオで観察した研究では、
外側で眠っている2羽の鳥は、
内側の烏より片目で眠る回数の多いことが確認されている。
列の端にいるマガモは外側の目を開けて危険に備え、
時折体を入れ替えて反対側の目で警戒していた。
ゾウは横になって眠るのは2時間程度であるが、
後の4時間は立ったまま、
うとうと状態で、低カロリーの草を食べながら眠る。
対照的に肉食獣のライオンは、高カロリーの食事を取り、
14時間も眠っている。
このように、生物の眠り方は多種多様であり、
生存のために睡眠は巧妙にプログラムされている。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議18」 『秋田魁新報』 2009年6月8日