「眠り薬を友としてあくる日までの安らぎうれし」
これは、祇園のお茶屋の女将さんからいただいた句です。
彼女の肌は艶々としており、
八十四歳とは思えない若さと頭の回転の良さに一同びっくりしました。
女将さんは毎晩、睡眠薬を半錠ずつ飲んでぐっすり眠っているとのこと。
薬をうまく使って、健康を維持しているのです。
五十歳になるS子さんは、三年前から気分がすぐれません。
昼間にとても眠く、何をやってもおもしろくありませんでした。
心療内科で軽度のうつ病を疑われ、
一年間薬を飲んでいますが良くなりません。
あるとき偶然、
病院の中に睡眠外来の掲示があるのを見て、
思い切って受診しました。
一泊の睡眠検査を受けたところ、
中等度の睡眠時無呼吸症候群があることがわかりました。
早速、
寝ているときにマスクをつけて鼻から空気を送るシーパップ治療を受けました。
シーパップを使うと昼間の眠気がなくなり、
この三年間悩んでいたうつうつした気分がすっかり改善しました。
マスクをつけて眠るのは嫌ですが、
気分がよくなるので我慢できます。
睡眠薬を飲んで眠ると、
マスクがあまり気になりません。
ただ、毎日睡眠薬を飲むとくせになったり、
頭に悪影響があるのではないかと心配で主治医の先生にお聞きしました。
先生の答えは「睡眠薬がなくては眠れないといっても、
量が増えているわけでないので心配要りません!
昔の睡眠薬と違って最近の薬は、
習慣性は少なく、多量に飲んでも死ぬことはないし、
頭がぼけることもありません。
ただ、お酒と一緒に飲むと、
一時的に記憶がなくなることがあるので、
やめて下さい」
良い睡眠が取れないと、
うつ病になったり、
糖尿病や高血圧といった生活習慣病を悪化させます。
糖尿病の方で睡眠薬を飲んだグループと、
飲まなかったグループで比較した研究があります。
睡眠薬を飲んだ人たちでは夜の覚醒数が少なくなり、
検査値(ヘモグロビンA1C)が低下しましたが、
飲まなかったグループでは悪化していました。
祇園の女将さんのように
うまく眠り薬を使って
いつまでも若々しくいたいものですね。
出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために⑮」 『京都新聞』 2008年7月8日