睡眠は誰でも毎日取っており、
ごく当たり前の現象なので古くから科学的に究明されてきたと思われがちですが、
実はそうではありません。
睡眠が神話や神秘的な世界から脱け出し、
科学や生物学的な観点から光が当てられるようになったのは、
1953年のレム睡眠の発見や
その後の睡眠ポリグラフィーなどの検査法が確立以後のことで
50年余しか経っていません。
非常に若い学問ですが、睡眠研究は近年脳科学と共に飛躍的に発展しています。
機能的磁気共鳴映像法(fMRI)や陽電子放射断層撮影法(PET)による
脳の機能の研究で
脳の働きと行動や夢、意識と潜在意識などの仕組みについても
生理学的見地から検討されるようになりました。
また、覚醒ホルモンオレキシンが発見され、
今回はほとんど触れませんでしたが眠りを起こす睡眠物質研究も
目覚ましいものがあります。
ハエなどの下等動物で不眠遺伝子が発見され
高等動物についても存在の可能性が示唆されています。
そして、睡眠と行動の相互関係を研究する
睡眠心理学という学際的な学問分野も出現しています。
これらの研究で明らかになったことは、
睡眠がいかに大切で必須なものであるかということです。
さて、”良い眠り”とは食、運動(労働)とともに健康の三大要素であり、
ひいては良い人生の基です。
しかし現在でも、
今まで得られている学問的成果や知識の一般社会への広がりは不十分で、
誤解や軽視されています。
今後は、睡眠関連学会などがさまざまな手段で睡眠に関する正しい知識を広め、
睡眠も保健体や栄養並みに学校教育に取り入れてほしいものです。
また、増加が予測される睡眠障害に対処するためにも、
付録のように扱われている睡眠の医学教育を充実させ、
睡眠専門医を増やす必要があります。
今回睡眠について書く機会を与えていただき、読み返すと反省点だらけですが、
私自身が知識の整理や良い学習の機会となりました。
このなかで、生物学的には暗い方が寝やすいはずでも
電気をつけていないと眠れない人もいるように、
睡眠は生物学だけでなく
心理や文化の影響も強く受けていることを痛感しました。
最後まで読んで下さった読者の皆さまにお礼を申し上げます。
出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 30」 『琉球新報』 2008年12月22日