時差ボケをうまく使って、健康ライフ?

いびきや睡眠中の無呼吸を、手術で治療する講習会のスタッフとして、
アメリカ合衆国のセントルイスに先日行ってきました。
セントルイスは、ミシシッピー河沿いに発展した街で、
1764年にフランス人が毛皮の取引所を設け、当時の仏王ルイ9世に因んで命名されました。
バドワイザービールの産地としても有名です。

筆者は30数年前にここで1年間の研究生活を過ごしたことがありましたので、
その時兄貴分として長年親しくしてもらっているジョージの家に泊めてもらいました。
丁度そこには彼のガールフレンド、エビーがギリシャのアテネから来ていました。
エビーは64歳の女医さんで、心理療法の専門家です。
彼女は、ここ数年乳癌で手術を受け、さらに家族の問題もあって、
眠れない日が続いていました。
アテネでは、眠りにつくのは毎朝3時から4時ころ、
起きるのは午後遅くとまったくの昼夜逆転生活でした。
ところが、セントルイスに来てから、とても調子が良いのです。
朝は7時半ころに自然に目が覚めます!
彼女は健康的になったと喜んでいますが、なぜ昼夜逆転が良くなったのでしょうか。
その理由を説明するとこうなります。

 

太陽の光を浴び

 

エビーが住んでいるギリシャのアテネと、セントルイスは時差が8時間あります。
たとえば、エビーがアテネで起床していた、
午後3時はセントルイスでは、8時間遅れの朝7時にあたります。
おわかりでしょうか。
エビーの体内時計は、ギリシャでは普通の人に比べて8時間も遅れており、
社会生活に支障をきたしていましたが、
ここセントルイスでは、時差のおかげで朝7時にぴったり合っており、
起床できることになります。
ここセントルイスでは、彼女の遅れていた体内時計は正常人のリズムに合っているのです。
エビーは、すこし気持ち的にもうつ傾向でしたが、
太陽の光を朝から浴びることで精神的にも元気になりました。

朝食の際、エビーはコーヒーと菓子パンだけを食べていたので、
私は、タンパク質を含んだ食事、たとえばハムエッグを食べることも薦めました。
朝食に食べるハムや卵には、必須アミノ酸のトリプトファンが多く含まれています。
この、トリプトファンは、太陽の光を浴びることで元気のホルモン「セロトニン」に合成されます。
このセロトニンは夜になり光がなくなると、眠りのホルモン、「メラトニン」に変換されるのです。
朝にタンパク質を適切にとると、昼は元気に活動でき、夜はぐっすりと眠れるのです。

エビーのように、アテネで午後3時ころに起きていると、
太陽光を浴びるチャンスも少なく、朝食を十分に取れないので、
元気のホルモン「セロトニン」が合成されなくて、うつ傾向になってしまっていたと考えられます。

 

腹時計も食事で

 

私たちの体は、数万年以上も前から昼に活動し夜に休息をとるように体内時計でコントロールされています。
今の24時間社会では、体内時計を無視した生活を送っているために不調になりやすいのです。
しかし、エビーのように時差ボケをうまく使って、
乱れた生活リズムを改善するのも良いかもしれません。

体内時計には頭の時計と腹時計の2種類があります。
頭の時計は光でうまくリセットできますが、腹時計は食事、
特に朝食でリセットすることが大切です。
アメリカでは、アラバマブレックファストが豪華なことで有名です。
アラバマでは農夫がしっかり1日働くために、朝から肉や卵を含んだビッグな朝食をとります。
体内時計のメカニズムを上手く活用して健康な生活を送りましょう。

 

「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年10月15日」


カテゴリー: 睡眠健康大学 【講義リスト】