友人のM氏から、国際線パイロットの睡眠について話を聞きました。
M氏は大手電機メーカーで20年以上睡眠の研究をしていました。
この5年ほどは、私と一緒に看護師や消防士、産業労働者を対象に、
睡眠・覚醒・労働時間などを基に疲労度や覚醒度を算出して、
その結果から体にやさしい勤務スケジュールを作成する仕事をしています。
M氏の話では、今の国際線のパイロットは、
昔と違ってとても重労働とのことです。
以前なら現地で何日か過ごして、帰りのフライトのために体調を整える余裕があったそうです。
しかし、現在の航空業界の経営状況は厳しく、
昔のようにはゆっくりできないのです。
そんな時は時差ぼけで体調を崩さないために、
短い期間であれば現地に着いても出発地(日本)の時間で生活するそうです。
例えば、ヨーロッパ便では、
昼に関西空港を出発して、
12時間のフライトをして、
現地の夕方に着きます。日本では真夜中になります。
現地は夕方ですが、体内時計は深夜ですので、すぐ寝れば周囲も暗いし、
ある程度は眠れます。数日であれば、ヨーロッパ滞在中も日本時間で生活すれば、
体のリズムも崩れず、日本に帰ったときに時差ぼけ症状が軽くなります。
香川選手も調節
同じことは、香川真司選手が所属する英国サッカークラブの名門マンチェスターユナイテッドの
選手管理でも行われています。
マンチェスターユナイテッドは世界中で招待試合をこなさなければなりません。
最近、中国に招かれたときは、3日間の滞在でしたが、完全にイギリス時間で
選手の睡眠、食事、練習時間を睡眠トレーナーがコントロールしていたとの記事を見ました。
とても理にかなっています。
短期間で世界を転戦しているとすぐに体内時計に変調をきたします。
私たちの体内時計は1日に2時間程度しか調整できません。
8時間の時差があると4日はかかるわけですから、短期間の移動では本拠地の体内時計で動くことが、
選手のパフォーマンスを上げるために有効です。
私の友人が昨年、ヨーロッパ睡眠学会のためにフランクフルト便に乗った時のことです。
日本人で、ドイツの名門サッカークラブに所属する選手が近くの席だったので、様子を見ていると、
彼は軽食を済ませた後、ビデオを見ることもなくすぐに毛布にくるまってぐっすりと眠っていたそうです。
さすがに一流選手は自己管理が徹底していると感銘を受けたとのことです。
昼でも体を休め
時差ぼけに注意することは、近年盛んになっている
中高年の海外トレッキングでも同様です。
例えば、日本からスイスに向かうと夕方に着きます。
まだ明るいからと、ウォーミングアップに歩いたりすると、
高齢者でほ転倒してけがをするリスクが高まります。
無理は禁物です。
東向き、例えばアメリカ便ではもっと時差ぽけ症状が強くなります。
午後に成田を出て、ロサンゼルスに朝に到着します。
その時点の日本時間は深夜l時ごろ、眠いときに到着することになります。
本来なら、すぐホテルで寝て、少し休めば良いのですが、
時間がもったいないと仮眠をしないでショッピングや観光に行くと体がだるくて楽しめません。
国際線パイロットは、到着するとすぐホテルで休むそうです。
日本時間に合わせて体調を管理することが大切です。
帰国するときは、ロサンゼルス出発は昼の時間なので、日本時間の早朝です。
体温が最も低下し、眠気の強い時間帯ですから、
パイロットは眠くて体が動かず、とてもつらいそうです。
「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2013年2月25日」