島津製作所フェローでノーベル賞受賞者の田中さんは、
ある新聞記事の中で次のように話されています。
「研究にはまず睡眠。発想が浮かんだら逃さずメモが大切です。
夜中まで仕事することはありません。大体夜の7時ころまでですね。
夢中になっていて、夜の10時ころまで実験したことがないわけではありませんが、
研究に集中できるのは7時間程度が限界です。
睡眠は7時間とらないと体調が良くない。
ノーベル賞が決まった日は眠れませんでしたが、その後は7時間に戻りました。」
睡眠には、起きているときに見聞きした様々な情報を整理し、
必要なことを記憶、無用のことは消去する機能があると考えられています。
昼間に取り入れたすべての情報を記憶していると、
コンピュータのハードディスクと同じように、すぐに記憶容量がパンクしてしまいます。
睡眠を十分に取らないと、
いらいらしたりやる気が出ないのは大脳の機能が十分回復していないからです。
相対性理論も
ヒトの睡眠は、大脳を休め修復するノンレム睡眠と、
脳が半覚醒状態で夢を見ることの多いレム睡眠が1セットとなって、
一晩に4回程度このセットが繰り返されます。
つまり、ヒトは一晩に4回程度夢をみるのです。
夢の中では、過去の記憶がばらばらに再生されますから、
突拍子のない発想が浮かぶことが少なからずあるのです。
かのアインシュタインが、相対性理論を思いついたのも、
うたた寝していた時であったというのはよく知られている話です。
また、ミシンの発明に関しても面白いエピソードがあります。
アメリカのイライアス・ハウが今のミシンを完成させるまえに、
針の糸穴の位置が決められないで悩み、開発に行き詰まっていました。
ある夜、槍を手にしたインディアンに処刑される夢をみました。
彼らが振りかざした槍の先端をふと見ると、先のほうに穴が開いていたのです!
その槍が彼を貫いたところで目を覚ました彼は、
さっそく現在のミシンのように針先に糸を通すアイデアを思いついたといわれています。
これらの話を睡眠学の立場から解釈すると、睡眠の機能が良く描かれていることがわかります。
クリエーティブな仕事をする場合、徹夜で考えるのは無駄です。
どんなにまわりが静かで集中できると思っても、夜通し行うのは意味がありません。
眠らないことにはインプットした情報が整理されず、
新たな発想も生まれにくくなってしまうからです。
夜までに、しっかり考えて眠りましょう。
そうすることで、寝ている間に様々な回路をつなぐ脳の機能がうまく使われ、
斬新なアイデアが生まれる可能性が高くなります。
好きなものから
ほかの徹夜対処法として、とにかく仕事の量が多く、
どこから終わらせようかという状況なら、興味のあるものから始めるのも一案です。
自分が興味・関心を持っている仕事は「やらされている」感がある仕事よりも、
眠気に負けずにやる気がでてくるからです。
しかし、夜遅くなればなるほど疲れがたまり、
自分の気持ちややる気とは裏腹に頭が働かなくなってきますので、
疲れてきたら30分以下の仮眠を何回かに分けてとることも効果的です。
詳細は、拙著 「脳に効く睡眠学」 (角川SCC 2010)もご参考にしてください。
「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年7月30日」