夢を見る仕組み 

 

ぼんやりがいい

うれしいことがあると、「まるで夢のようだ」と思うことがあります。
素敵な恋人とデートして、食事に誘い、
そのあとブルースやワルツを踊って、胸をときめかせる。
さあ、いつ言い出そうかと心は上の空・・・。
色よい返事を聞いて有頂天。
とうてい無理だと思っていたことが現実になる。
こんなことは目覚めていてめったに起きることではありません。
夢のような話なのです。
反対に、素敵な恋人とデートして、食事に誘い、
そのあとブルースやワルツを踊って、胸をときめかせる。
さあ、いつ言い出そうかと心は上の空・・・。
残念ながら、断られてしまったりしますが、実はこれが現実で、夢ではないのです。

夢を見ているときは、目を閉じていても、
なぜ見えたり、眠っていてもなぜ聞こえたりするのでしょうか。
目覚めていて、目を閉じて、何かを想像しても、
あいまいな映像が現れてくるにすぎません。

音楽もなんとなく聞こえてくるような感じだし、
人の話も犬の吠える声も実際に具体的に聞こえるわけではありません。
目覚めている間に、リアルに見えたり、聞こえたりすると、
生きていく上で非常に困ったことになります。ぼんやりでちょうどよいのです。

うとうと眠くなってくると、何やら、多くの人々が歩いていたり、
赤い夕日が見えたり、人の声が聞こえてきたりします。
このような幻覚を入眠時心像と呼んでいます。
入眠時心像は、見ているときにはまだ半分目覚めていて、
「何かが見えたり、聞こえたりしている、面白いなあ」と短い間でも楽しむことができますが、
普通はそのまま寝入ってしまいます。
ですから、たいがいの場合、思い出すことは少ないのです。
さて、眠りが深くなってきて、だいたい90分くらい経つと、不思議な現象が現れてきます。
眼球がきょろきょろと動き始めたり、筋肉の力が抜けたりします。
脳の活動もちょうど眠りばなの状態に近くなっています。
このときに、眠っている人を起こすと、
「はっきりとした夢を見ていました」と報告します。
生まれてからこのかた、一度も夢を見たことがない、
という人でも、「夢をみていた」と答えるのです。
起こさないで眠ったままにしておくと、夢は忘れられてしまうのですね。

 

側頭葉で過去が

 

この現象は60年ほど前にアメリカで発表されました。
睡眠中に眼球がすばやく動くことから、
この状態を急速な(Rapid)眼球の(Eye)運動を(Movement)伴う睡眠(Sleep)、
これらの頭文字をとって、REMSつまりレム睡眠とアメリカでは呼ぶことにしました。
ヨーロッパでは、眠っているのに目が覚めたような不思議な状態なので、
逆説睡眠とよんでいます。

では、なぜ、夢をみているときには、目を閉じていてもはっきりとした映像がみえるのでしょう。
想像よりも、入眠時心像よりも、くっきりとしています。
外科手術のときに目覚めている患者さんの頭蓋骨の一部を開いて、
脳の表面を電流で刺激しているうちに、いろいろなことが分かってきました。

例えば、視覚皮質を刺激すれば映像を見ることが、
聴覚皮質ならば音声を聞くことが報告されました。
そして側頭葉を刺激すると複雑な過去の出来事が夢のように見えてきたのです。

つまり、夢の場合も、脳内のどこかが、
脳内のさまざまな部位を刺激しているのだろうと考えられています。
どこかとは脳の奥深くにある脳幹であることが分かっています。

今回は、友人でフランス・リヨン在住の北浜邦夫先生の寄稿です。

 

「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年12月10日」


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