夜勤で起きる「時差ぼけ」

秋田県側の鳥海山麓の病院で働く四十歳の純子さん(仮名)は、
週に一回夜に働くという大変な勤務があります。
「夜勤明けに家に帰っても良く眠れません。
若いころはそれでもある程度回復していましたが、
近頃は疲れが残りボーとしてしまいます。
年をとったのかな?と感じるこの頃です」
と詰していました。

夜勤では、通常は眠っている夜の時間帯に仕事をし、
仕事を終えた翌朝から昼にかけて睡眠をとらなければなりません。
夜間に起きていたことで睡眠への欲求は高まっていますが、
朝の時間帯には体内時計の働きで
体が活動に適した昼の状態になっていくため、
疲れて眠たいのに、
よく眠れない状態になってしまいます。

例えば、夜五時からの準夜勤務は、
身体の時計から見ると、
八時間時差のあるパリで仕事を始めるのと同じことになります。
午前零時からの深夜勤務は、
時差から見るとシカゴの病院で勤務していることになります。
実際にパリやシカゴに行くわけではありませんが、
純子さんの体内時計は日本の時間を刻んでいるのに、
仕事の時聞は、パリやシカゴでの勤務と同じ状況なのです。
体内時計からの信号で、
夜の午前零時頃からは体温も下がり、眠くなってきます。
しかし、働かなければならないので、
身体が思うように動かず疲れるのです。

朝になって、勤務が終わり帰宅後は、
体内時計が朝を感知して身体を目覚めるように働きかけます。
疲れで眠いのですが、
身体は目覚めてくるために、頭と身体が一致しなくて変調をきたします。
これが、いわゆる「時差ぼけ」です。
交代勤務による場合を英語でIndustrial Jet lagと呼びます。

時差ぼけに対処するためには、
夜勤後帰宅する際にサングラスなどをかけ
強い太陽光が目に入らないようにする工夫が実際に行われています。
朝の光を浴びないことで
活動準備を始めようとする体内時計を少しだまして、
まだ夜と思わせることができるからです。
また夜勤のある日に午後二時から四時頃までに二時間程度仮眠をとってお
くと、夜勤中の疲労をかなり軽減できます。

さらに、夜勤は続けてしたほうが、
毎週一回夜勤をするより疲労度は半減できます。
毎週一回パリやシカゴで仕量をして帰国するより、
パリに四日滞在したほうが時差に慣れますね。

私たちの体は、
数万年以上も前から日中に活動し
夜に休息をとる生活を続けるように体内時計がコントロールしています。
今の二十四時間社会では、
体内時計を無視した生活を送っているために不調になりやすいのです。
どうぞ、睡眠知識をうまく活用して快適にお暮らしください。

 

出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために24」 『京都新聞』 2008年9月9日


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