看護師の令子さん(47)仮名は、
週に1回夜に働くという大変な勤務がある。
「若いころは、夜勤明けでもぐっすり眠って回復できていましたが、
近ごろは十分眠れず、疲れが取れません。
年を取ったと感じます」
と話していた。
夜勤では、
通常は体が眠っている夜の時間帯に仕事をし、
仕事を終えた翌朝から昼にかけて睡眠を取る。
夜間起きていたことで睡眠への欲求は高まっているが、
朝の時間帯には体内時計の働きで体が活動に適した覚醒状態になっていくため、
疲れて眠いのによく眠れない状態になってしまう。
例えば、
夕方5時からの準夜勤務は、
体の時計から見ると、8時間時差のある
パリで仕事をするのと同じことになる。
0時からの深夜勤務は、
時差から見るとシカゴの病院で勤務することになる。
実際にパリやシカゴに行くわけではないが、
令子さんの体内時計は日本の時間を刻んでいるのに、
仕事の時間は、パリやシカゴで勤務するのと同じ状況である。
体内時計からの信号で、
深夜2時ごろからは体温も下がり、強い眠気が襲ってくる。
しかし、休めないので疲労が倍増する。
朝になって勤務が終わり帰宅するが、
体内時計は朝を感知して体が目覚めるように働き掛ける。
疲れで頭は眠いが、体は目覚めてくるために、
脳と体が一致しなくて変調を来す。
これが、いわゆる「時差ぼけ」である。
交代勤務によるものを英語でIndustrial Jetーlag(産業労働による時差ぼけ)と呼ぶ。
時差ぼけに対処するために、
夜勤後帰宅する際にサングラスなどをかけ
強い太陽光が目に入らないようにする工夫が実際に行われている。
朝の光を浴びないことで活動準備を始めようとする体内時計を少しだまして、
まだ夜と思わせることができるからである。
また、夜勤のある日に午後2時から4時ごろまでに2時間程度仮眠を取っておくと、
夜勤中の疲労をかなり軽減できる。
さらに、夜勤は続切でした方が、毎週1回夜勤をするより疲労度は半減できる。
日本からヨーロッパに旅行すると時差を強く感じず、
比較的早く現地に慣れることができる。
これは、人の体内時計は時間を遅らせることには順応しやすいからである。
1週間で、日本パリ、シカゴと回るより、
日本で5日、パリで5日、シカゴで5日とゆっくり勤務をローテンションすると、
体内時計の順応性がよく、
疲労度は格段に軽減できる。
私たちの体は、数万年以上も前から
日中に活動し夜に休息をとるように体内時計がコントロールしてきた。
今の24時聞社会では、体内時計を無視した生活をしているために不調になりやすい。
睡眠知識をうまく活用すると、
安全に楽に働くことができる。
「良い眠りで、美しい人生」をお過ごしください。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議25」 『秋田魁新報』 2009年8月3日