1980年代、米国の睡眠研究者が回転する台座と水のプールを使用した装置を作り、
ラット(ねずみ)で完全断眠の実験をしました。
ずっと眠れないようにすると、ラットは次第にぎこちない動きになり、
通常よりも餌を多く食べるにもかかわらず、やせこけてきました。
最期は体温が下がってきて、三週間以内に死んでしまいました。
死後、脳をはじめ主要な臓器を調べましたが、明らかな死因は発見できませんでした。
しかし、動物に食事を十分に与えて運動をさせても、
ずっと寝かさなければ死に至ることが明らかになったわけです。
その後の研究で、断眠は免疫を低下させることが分かりました。
免疫とは、病原菌や病気から体を守る仕組みです。
発熱や睡眠は、免疫に重要な働きをします。
感染症で発熱するのは、免疫に関係する白血球やリンパ球が増えて、
熱で病原菌を殺したり増殖を抑制したりするためです。眠くなるのも、
白血球から作られるインターロイキンなどの免疫増強物質が増えるためです。
眠ることでエネルギーを節約し、病原菌との戦いに集中できるわけです。
完全断眠で死亡前に体温が下がるのは、免疫機構が破綻し、
体温を維持することができなくなるためだとされています。
ラットを用いたほかの完全断眠実験では、
通常の免疫なら病原菌となりえないような菌が、
血液ヘ感染し、敗血症が死因となりました。
ウサギに細菌を感染させた実験では、深睡眠の量が多いほど死亡率は低下しました。
人間は、完全断眠を意識的に続けようとしても、最終的には必ず眠ってしまいます。
またずっと寝かせないと最期はどうなるかという実験は、人道的にも不可能です。
しかし人間でも、完全断眠ラットの様子と非常によく似た
「致死性家族性不眠症」というまれな病気があります
この病気は、睡眠中枢が障害を受け、注意力や記憶の欠損から始まります。
次第にまったく眠れなくなり、自律神経や内分泌の失調が起こり、死に歪ります。
不眠が直接の死因なのかは不明ですが、
人間もずっと寝なければ死亡することを示しています。
アメリカがん協会が、百万人以上を対象に健康調査し、
六年後に死亡との関係を分析した結果によると、
年齢、たばこ、アルコールなどを考慮にいれても、
睡眠時聞が少ないほど死亡率が高くなるというものでした。
睡眠は免疫を強める最大の武器です。
出典:名嘉村 博 「良い眠り 良い人生 10」 『琉球新報』 2008年7月1日