今の日本に必用なこと

筆者の友人で、愛媛県の八幡浜で耳鼻科医をやっておられる、菊池淳先生に、
日頃睡眠について感じておられることを寄稿して頂きました。

 

夜が早い町では

 

私の住んでいる町は、四国の片田舎で、人口は3万人強のこじんまりした所です。
産業の中心は農業と漁業の第一次産業が中心です。

さて、読者の皆さんは今までのコラムで睡眠の大事さをよく理解されたと思いますが、
東京や大阪などの大都会と、このような地方の町との最も大きな違いは何だと思われますか?

いろいろ挙げられるでしょうが、
私は、就寝時間や睡眠時間などの、いわゆる睡眠環境ではないかと思っています。

農業や漁業に従事されている方は、仕事が朝早く始まります。
必然的に皆さんは早起きになり、もちろん次の日に備えて早寝にもなります。
すると、町全体の生活リズムもおのずと定まってきます。

例えば商店街を歩いてみましょう。
地方の小さな町ですので、
ご多分にもれず「シャッター通り」と言われる様に閉まったままの店舗が多くあります。
開いているお店も、夕方の5時を過ぎるとほぼ閉まってしまいます。
7時になる頃には、もう中心部はひっそりしています。
24時間営業のコンビニエンスストアは、この2~3年でようやく数軒進出してきましたが、
これ以外には数少ない居酒屋が開いているだけです。

大人が早寝・早起きになると、子どもたちも同じ生活習慣になります。
早寝・早起きの習慣が身に付いたお子さんは、どのような子どもになるのでしょう。

何にでも例外はありますが、ほぼ、みなさん素直な良いお子さんになります。

 

都会育ちの傾向

 

私の町から東京などの都会に出て行った人たちが、
お盆や正月に都会で生まれ育った子ども達を連れて帰って来られます。
この子ども達をみていると、小学生、中学生、高校生と学年が上がるにつれ、
地元の子ども達との差ははっきりしてくる様に思います。

例えば、眼をみて話せない、あいさつができない、お礼がいえない、
自分のことが話せず全部親に言ってもらう、などなど。
就寝時間を尋ねると、小学生でも夜中の11時頃に眠ると答えます。
中高生になると12時を超えるのが普通のようです。

家庭環境だけではない大きな違いがある様に思います。
子ども達の成長・発達を考えるとき、早寝・早起きはきわめて重要です。

町全体がその生活リズムであれば、子育てにこんな良いことはありません。

一方、私の住んでいる町の経済状況はどうでしょうか?
農業・漁業以外の産業がありませんので、若い年代の就職先が少なく、
働き盛りが町を出て行きます。

商店街はシャッター通りとなってしまい、人口はこの30年で三分の二に減ってしまいました。
子どもの数は減り、高齢者の数は急増しています。
幸いなことに、みなさんは早寝・早起きの習慣が身に付いていますので、
お元気な「ご長寿」ばかりですが、町の将来を考えると明るい話題はほとんどありません。

早寝・早起きの町がさびれ、不夜城のような都会が発展していくのは、
何だか健全ではない様に感じます。

せめて、早寝・早起きの町が、
心身と共に経済も元気でいられる様な社会になってもらいたいと思います。

 

「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年9月10日」


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