昨年、北海道・洞爺湖で「地球環境」をテーマにしたG8サミットが開催された。
その際、地球温暖化対策の目玉として政府は、
サマータイム(夏時間)導入を前向きに検討していた。
主要8カ国の中でサマータイムを導入していないのは日本だけであった。
夏時間は日照時間の長い期間を有効に(?)
活用しようと欧米を中心に導入されている制度。
欧米の多くの国・地域では、 3月から10月までの間、
時計を通常より1時間早めている。
しかし、皆さんは、 明日から夏時間が始まるからといって、
すぐに1時間早く寝付くことができるであろうか。
また、 毎朝1時間早く起きなければならないとしたらどうであろうか。
友人のティル・レンネベルグ博士(ドイツ)は、
「サマータイム制度には多くの問題があり、期待される効果よりも弊害が多い」
と話してくれた。
夏時間では、 私たちの身体の時間(体内時計)と社会の時間が同調できず、
睡眠不足や時差ぼけの状態となってしまう。
レンネベルグ博土がドイツ国民5万5千人を対象にした調査によると、
体内時計がサマータイムに適応するのに3週間以上要しただけでなく、
春の移行時には睡眠時間が短縮し、
夜型人間では特に睡眠障害が強くなったという。
人の睡眠リズムは春秋2回の時間変更にすぐには同調できず、
その聞は作業能率が低下する。
また、春の変更時には目覚めの気分が悪くなるなどの影響が出る。
話は変わるが、アメリカの多くの高校が、 朝7時半に始業しているが、
1時限目には27%の学生が居眠りをしており、
遅刻する学生も目立っている。
そこで、五つの州の高校が始業を1時間遅らせたところ、
出席率が良くなり、 居眠りする学生もいなくなり、
学業成績が向上したという(ニューヨーク・タイムズのホ一ムページより)。
思春期の学生はただでさえ夜更かしなので、
朝に1時間長く眠ることで睡眠不足が解消され、
頭の回転が良くなったのではと推測される。
今のような夜更かしのわが国で、
夏時間を導入するとどうなるか皆さんお分かりであろう。
2005年には、サマータイムを導入していたカザフスタン共和国で、
期待された省エネ効果がないこと、
健康に悪影響を与えることを理由に廃止法案が可決された。
ロシア共和国でも
「サマータイム導入後に心筋梗塞や自殺が増加した」
として廃止法案が提出されている。
私たちの体内時計は本来、 太陽とともに目覚め、
日没とともに眠るといった自然環境に適応するようできている。
人為的に時計を進めることは、
省エネにならないだけでなく、 体内時計を乱し、
ただでさえ睡眠不足の日本人の健康に良くない。
その後、福田首相の退陣とともに、
サマータイム導入論議は下火になっている。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議23」 『秋田魁新報』 2009年7月20日