愛知県T市の職員を対象に、眠るためにしていることを聞いたところ、
男性では寝酒が多く、女性ではコーヒーや紅茶を飲んでリラックスしているという人がいました。
寝酒が睡眠を悪くすることは明らかですが、コーヒーや紅茶に含まれるカフェインも寝付きを遅らせ、
睡眠時間が減り、中途覚醒も増えますので、注意が必要です。
目覚めさわやか
私の友人でアメリカ人のロバートから聞いた「コーヒーと睡眠」の話を紹介します。
ロバートの専門は、病気の原因を睡眠と統計学から明らかにすることです。
「私自身の睡眠に、あまり問題があるとは思っていませんでした。
毎朝起きると、気付けにコーヒーを一杯飲んで、元気になって働き、
眠たくなったときに、コーヒーを飲み、1日に2~3杯のコーヒーを飲んでいました。
あるときひどい下痢をして、家庭医からコーヒーを控えるように指導を受け、
その日からコーヒーを完全にやめました。
そうすると、不思議なことに毎朝飲んでいたコーヒーが欲しくなくなりました。
日中は眠くなく、疲れもなくなったのです。
考えてみれば、疲れなくなったのは、コーヒーをやめたころからでした。
きっと、コーヒーをやめたことでよく眠れるようになり、疲れも取れ、
眠気もなくなったと推測しています」。
不眠が強く影響
また、ロバートは長年、高血圧の薬を飲んでいましたが、
コーヒーをやめたのを境に、収縮期血圧が10㍉以上も下がりました。
血圧が下がったのは、なぜでしょう。
今までは、カフェインの副作用で睡眠が障害され、
良い眠りがとれないために交感神経が緊張し、高血圧になっていたのではないかと考えられます。
高血圧は肥満が原因といわれていますが、実は
その背景に睡眠が関係していることが分かってきました。
高血圧の人には不眠が多く(30~50%)、また不眠が高血圧をもたらすことも分かっています。
別の研究では、高血圧の患者さんたちに睡眠薬を投与したところ、
睡眠薬を飲んでいなかった患者さんたちに比べて、
夜中の中途覚醒の回数が減少し、血圧の下がった患者さんが多くなりました。
眠りが良くなると血圧が下がるのです。
高血圧の原因がコーヒーとはいえませんが、
カフェインが睡眠を障害して、結果として血圧が高くなることがあるので、
カフェイン飲料を適度に楽しむことが大切です。
コーヒーはその昔、エチオピアのヤギを飼っていた人が偶然発見したといわれてます。
ヤキが、コーヒーの実を食べて、興奮して
踊りだすように見えたことから、その覚醒作用に気付いたのです。
このコーヒーの覚醒作用は珍重され、
アラビアに最初のコーヒーショップができてから数年のうちに
ヨーロッパ全域に、コーヒーショップが広がったことからもカフェインの効果が分かります。
大脳は疲れると、アデノシンという物質を介して眠りの中枢を刺激し、
覚醒中枢を抑えて、私たちを眠りに誘います。
脳が疲れたから眠りましょうとアデノシンの信号をカフェインがブロックし、
睡眠中枢が活性化しないようにしているのです。
やや多めに、コーヒーを飲むと、
睡眠中の脳の代謝が高まり、浅い眠りが増え、
深い睡眠が減って睡眠障害となってしまいます。
カフェインの効果は、年齢や個人差はありますが、
4時間以上持続しますので、夕方のカフェイン摂取は注意しましょう。
「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2013年2月18日」