わたしは月一回、由利本荘市にある病院の睡眠外来で診療を行っている。
今回は、そこで治療している患者さんの話である。
七十八歳の菊池カネさん(仮名)は五年前から夜になると脚にしびれや痛みが現れ、
とても困っていた。
夫に頼んで脚をさすってもらうと少しは楽になるが眠れない夜が続いていた。
整形外糾で診てもらったところ、
「MRI(磁気共鳴画像装置)による検査では骨はしっかりしていて、
とてもお若いですよ。下肢の血流検査でも問題はありませんね」と言われた。
しびれや痛みは年のせいで、
どうにもできないものなのだろうかと考えていた。
ある時、義妹が同様の症状で病院にかかったところ、
薬ですっかり良くなったと聞いて睡眠外来を受診。
病院に一泊して検査を受けると睡眠中に脚が20~40秒の間隔で、
周期的にピクピク動いていることが分かった。
病院で処方された薬を一錠飲んだその晩、
すっかり症状がなくなり、
久しぶりにぐっすり眠れた。
一番喜んでくれたのは夫であった。
その後、薬を毎晩飲み続けている。
菊池さんのような症状が出るのが、むずむず脚症候群だ。
一般の人の3~5%程度、
透析治療を受けている人では20~30%程度に生じ、高齢者に多い。
はっきりした原因は分かっていないが、
鉄の欠乏や神経伝達物質の機能低下がかかわっているという説が有力である。
むずむずする、かゆい、痛い、虫がはっているようなど、
何とも表現しづらい感覚が就寝前などに現れる。
特にじっとしているときにひどくなりやすく、
足を動かしたり歩いたりすると、その時だけはましになる。
このような症状は生活の質を低下させるだけでなく、
抑うつ状態を招くと報告されている。
あまり知られていない病気だけに、
治療を受けているのはごく一部にすぎないといわれる。
夜によく眠れない、
昼間にとても眠いといった自覚があり、
脚が夜になるとむずむずしたり、
寝ているときにピクンピクンする場合は、
ぜひかかりつけ医、または睡眠クリニックの受診をお勧めする。
いい薬があるので、菊池さんのように治療を受ければ症状の改善が期待できる。
過日の受診時、菊池さんは
「周りにも同じような症状で悩んでいる人がいるので、私の経験を伝えています」
と話し、病院を後にされた。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議9」 『秋田魁新報』 2009年3月30日