星の王子さまも
フランスの有名な小説家サンテグジュペリの書いた作品に『星の王子さま』があります。
作者の操縦する飛行機がサハラ砂漠で遭難して修理をしているうちに朝になりますが、
星の王子さまは、こんなときに現れます。
ちょうど、夢が現れやすい時間ですね。
彼はとある小さな星に住んでいたのですが、
わがままなバラの花に心を傷つけられて旅に出ることにしました。
多くの鳥にひもを結んでそれにつかまって空にふわりと浮かび、
いろいろな星をめぐって放浪していました。
よく夢に出てくる体験です。
操縦士に出会った王子さまは羊の画を描いてくれとせがみます。
しかし、いろいろ描いてみても王子さまは納得してくれません。
最後に、いくつかの穴の開いた箱を描くと大喜びします。
これで羊を閉じこめればバラの花が食べられなくてすむ、と。
それから、そこは砂漠なので水がありません。
それなのにいつの間にか井戸があって水をくむことができました。
その他、いろいろとつじつまの合わないエピソードが述べられています。
ちょうど私たちの見る夢にそっくりです。
一つひとつの話の内容は微妙に違うのに、
いつかまとまったストーリーができて、納得してしまう。
あったものがなくなって、なかったものが現れる。
空を自由に飛ぶことができる、などなどです。
一種の認知障害
脳幹にあるレム睡眠発生装置によって、
眠っていた脳の活動が高まります。
視覚皮質も働き始めて、いろいろな記憶が引き出されてきて、
それらを混ぜ合わせますから、いろいろなものが見えてきます。
見たことのないものまでつくり出してしまいます。
けれども、目覚めているときのように脳のすべての部分が働いているというわけではありません。
脳のこちらが働いていても、あちらがお休みをしています。
例えば、夢の中では本を読んでいても、文字までくっきり見えるわけではありません。
自分が話すことができなくなって、
動物が自分に語りかけてくることもあるのです。
これは一種の認知障害といえるでしょう。
このとき、散発的に脳幹から強い信号が送られてきます。
この信号は記憶の貯蔵庫から別な種類の記憶を引き出してきます。
似たような記憶であればそのまま、
似ていなくてもそのまま、夢は進行していきます。
似ていない場合、例えば、
羊が四角な箱になっても、砂漠に水が出てきても構いません。
夢をみているときには、それがつじつまが合っていなくても、批判はできないのです。
なぜなら、批判する役目の前頭葉の活動が低下しているからです。
死んだはずの人が出てきても、何もおかしいとは思わないのです。
ただ、死んだ人が出てきたときに、
「これはおかしい、死んだはずなのに」と批判ができるときがあります。
それは、脳の活動がずいぶんと高まってきて、
前頭葉の働きが少し戻ってきたからなのです。
もう少し、前頭葉の働きが高まってくると、
意志の力を働かせることができるようになることがあります。
足で軽く大地を蹴ると、すーっと空中に舞い上がり、
さまざまな所に自由にいくこともできますし、
壁さえ通り抜けることができるようになります。
まるで魂が身体から離れて自由になったような感じがしますね。
星の王子さまもこのようにしていろいろな星々をめぐったのでしょう。
今回は、友人でフランス・リヨン在住の北浜邦夫先生の寄稿です。
「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年12月17日」