高齢者に多い二つの病気

 

睡眠の病気で、高齢者に多い眠りの病気を二つ紹介します。

 

むずむず脚症候群

 

ある60歳の女性は、5年前から夜になると脚のしびれや痛みがあり、
寝付きが悪くて困っていました。
また、そのころより血圧も高くなり薬を飲んでも良くなりませんでした。

脚を動かしたり、さすったりすると少しは楽になりますが、ゆっくり眠れないのです。
昼間は眠くて困っていました。
整形外科を受診して検査を受けましたが、問題はないとの結果でした。

あるとき、友人が同じような症状で、
薬ですっかり良くなったことを聞いて、睡眠外来を受診しました。
病院に一泊しての検査を受けたところ、
睡眠中に足がぴくぴくと動いていることが分かりました。

病院で処方された薬を1錠飲んだその晩から、
脚の痛みや、しびれがすっかり無くなり、
久しぶりにぐっすりと眠れました。
高かった血圧も低下しました。

最近私の外来に来られた68歳の男性は、
はじめは脚だけでしたが、今は背中がむずがゆいと訴えていました。
この男性も薬を飲むことで、翌日から症状はほとんどなくなり喜んでいました。

このような症状は、「むずむず脚症候群」という病気です。
高齢者だけでなく、小児や妊娠中の女性、
胃の手術後、透析治療を受けている方に多くみられます。

原因として、鉄欠乏や神経伝達物質の機能低下が関係しているという説が有力です。
「じっとしていられない・むずむずする・かゆい・痛い・虫がはっているような」
などの何とも表現しづらい感覚が、夜寝る前など、静かにしている時にひどくなって、
脚を動かすとその時だけは楽になるというものです。

あまり知られていない病気だけに、
治療を受けている方はごく一部にすぎません。
夜よく眠れない、昼間にとても眠いといった症状があり、
夜になると脚がむずむずしたり、
寝ているときに脚がピクンピクンする場合には、
ぜひかかりつけの先生または睡眠クリニックの受診をお勧めします。

 

レム睡眠行動障害

 

65歳の男性は、4年前から睡眠中に立ち上がる、払いのける、
大声を出すようになり、睡眠外来に連れてこられました。

夢の中で壁を越えているつもりで、
ふっと目覚めてみるとかけ布団を払いのけていたとのことでした。
3日前には、突進している夢をみていて、気づくとタンスに額を強く打ってけがしていました。

これは、「レム睡眠行動障害」という病気です。
夢を見ているときには、
筋肉が緩み体が動かないようになっていて、
夢の中と同じ行動が取れないように制御されています。
しかし、高齢者やパーキンソン病などの病気では、
何かの拍子に筋肉を動かすスイッチが入り、
夢を見ている内容に沿って体が動いてしまうのです。
この病気は、高齢者の約0.5%程度で起こると報告されています。

夢の中と同じ行動をするので、夢の中で熊とたたかっているつもりで、
隣で寝ている奥さんに暴力を振るったりした例もあります。

最初は寝言から始まり、
そのうち手が動くようになり、起き上がって暴れるようになります。
体を揺すったり、
大きな声で起こすとはっきりと目覚めて夢の内容をはっきり話します。

対処法としては、家具は周囲に置かないなど、
寝室の安全確保とともに、
薬治療で症状の改善が得られます。
この病気は、パーキンソン病など神経系の病気の前駆症状として起こることが多いので、
睡眠外来や神経内科にご相談ください。

 

 

「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年12月3日」


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