アメリカの金融危機の影響は滋賀県にも及んでいる。
日中に眠くてたまらないと、
数カ月前から睡眠外来に通院している田口さん(46)仮名、男性が
「先生、不況のために残業がなくなってから体重が3キロ減りました!
早く帰れるので十分な睡眠時聞が取れ、
夜の過食もなくなり、体調が良いんです。
眠気も全くありません!
ただ、残業が減って生活は苦しいですが・・・」
と話していた。
田口さんの診断名は、
「睡眠不足症候群」。
単に睡眠時聞が不足したために、
昼間の過剰な眠気、いらいら、作業効率低下、その他多彩な症状を訴える病気(?)
である。
残業がなくなり、
睡眠を十分に取れるようになっただけで、
なぜ体重が減少してしたのであろうか。
今まで、肥満は食べすぎ、運動不足が原因といわれてきたが、
実は睡眠も関係していることが最近分かってきた。
その鍵を握るのが「レプチン」と「グレリン」というホルモンである。
レプチンは体の脂肪細胞から分泌される。
食後に分泌が高まり、これが脳の満腹中枢を刺激して、
食欲を抑制するように働く。
これに対し、
食欲を増進する作用を持つ物質がグレリンである。
グレリンは主に胃から分泌される。
空腹のとき、ストレスがかかったときに分泌され、
食欲増進作用がある。
ストレスのときに無性に食べたくなるのはこのホルモンの作用である。
20代の健康な男性を対象に、
睡眠時間が1日4時間の場合と、
10時間の場合の違いを比較した研究がある。
睡眠時聞が10時間の場合に比べると、
睡眠時聞が4時間の場合は、平均値でレプチンの血中濃度が18%減少、
反対にグレリン濃度は28%増加していた。
眠りはより良い明日のために脳を休め、
体を準備する巧妙にプログラムされた生理機構である。
寝不足では、睡眠負債という借金を背負うことになる。
負債を長期にわたってため込んでしまうと、
人は負債に押しつぶされ病気になってしまう。
経済の停滞している今こそ、
日ごろの睡眠不足を解消、借金なしでたっぷり眠り、
気持ち良く目覚めることで、人付き合いをスムーズにし、
眠気による事故を減らし、免疫機能を高め、
減量で生活習慣病を改善、
国全体が元気になるのではないだろうか。
眠ればよいだけなのだから、今夜から実行できる。
早く眠れば電力を節約でき、エコにもなる。
出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議17」 『秋田魁新報』 2009年6月1日