前回は睡眠が記憶の固定に大切なことを紹介しました。
今回はスポーツやピアノ演奏をはじめとする
運動技能の向上にも睡眠が大切なことをお話します。
車の運転技能等は、手続き記憶と呼ばれる記憶の一種です。
ある機内誌のインタビュー記事で大相撲横綱の朝青龍がこう話していました。
「心のうちではいつも、自分には稽古しかないんだと言い聞かせていた。
起きている時にはもちろん、
寝ているときにだって稽古のことだけ考えていたんだからね。
相撲が強くなるには稽古しかないんだよ」
このお話のポイントは寝ているときにも考えていたとのくだりです。
最近の研究報告では、
技能練習をしたあとに睡眠をとると、
成績が飛躍的に向上することが示されています。
図にあるように、
できるだけ正確にキーをたたくタッピング課題を行い、
その後起きていた場合と、
睡眠をとった場合で成績を比べました。
Aグループでは、朝10時に練習した後、
夜10時にテストを行いましたが、
有意な成績向上はありませんでした。
しかし、一晩寝た翌朝十時のテストでは、
成績は飛躍的に向上していました。
Bグループでは、夜十時に練習したのみで睡眠をとったところ、
翌朝十時のテストでキーを正確にたたく課題成績が
Aグループと同様に向上していました。
運動技能でも同様の研究結果があります。
運動技能を修得するには十分な長さの睡眠が必要であり、
六時間以下の睡眠では向上しないことがわかっています。
特に、学習直後に睡眠をとらないと、
向上率が低くなることも報告されています。
ご存じのように、お相撲さんは朝起きると直ぐに二~三時間練習します。
その後、ちゃんこを食べて昼寝をします。
また夕方にトレーニングをして眠る生活です。
このようなな一日二食で、
練習後に睡眠をたっぷりとる生活が大きな体を作り、
強い相撲取りになる科学的な生活習慣であることが、
睡眠の機能からみると、とても理にかなっています。
高知の土佐高校は進学校でありながら、
甲子園の常連でしたが、
その練習時間は夕方の二時間程度であったと聞いています。
最近の東大生はよく眠っているとのデータもあります。
よく練習し、勉強した後に、
十分な睡眠をとることが、文武両道にか秀でる近道ではないでしょうか。
出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために⑧」 『京都新聞』 2008年5月20日