緊急時の睡眠の取り方

今後起こるかもしれない東日本大震災のような非常時に、
どのように睡眠をとればよいのでしょうか。

震災直後に、
イスラエルの友人ラビエ博士より以下のアドバイスがメールで送られてきました。
彼は睡眠研究のパイオニアで、第1人者です。

「まず最初に大事なことは、
このような大災害時には「眠れないのは当たり前」ということをはっきり認識しておくことが、
人々の安心につながります。
睡眠は、心や身体を癒し明日への活力を育みます。

しかし、人が生きていくうえで最も大事なのは生命の安全です。
地震や余震で不眠になるのは、防御本能として当然のことなのです。
ただ、眠れない状況が2週間以上になった時には不眠症として対処する必要があります。
大きな災害時に「眠れないのは当たり前」ということを理解するだけでも、
多くの方のストレスが軽減されるのです。」

 

交通事故が実証

 

国立精神保健研究所の栗山先生の研究(2010)では、
「ショックな体験のあとに眠れなくなるのは意味がある」とのことです。
大切な人と不条理な別れをしたりすると、自律神経の興奮、
抗ストレスホルモンの分泌亢進等が影響して過覚醒状態となり眠れなくなります。
これまで、こうしたストレス性の不眠は休息を妨げるものとして治療が必要とされてきました。

しかし、睡眠は休息だけでなく、
記憶を強め長く残すような役割を果たしていることが最近わかってきました。

栗山先生は、ビデオ実験で交通事故擬似体験の直後に強制的に徹夜すると、
記憶を強める脳の作用が弱まり、
後にショック体験を思い出したときによみがえる恐怖やストレス感情が著しくやわらぐとしています。
これは、ストレスによる不眠は、
嫌な記憶による以後の生活への悪影響を
最小限にしてくれる特効薬であることを意味しているのではないかとのことです。

ただ、避難所や、仮設テントで何日も過ごしていると、
「夜眠れない」「ストレスで肩が凝り固まっている」状態になると思います。
「避難所等で睡眠をとるための10か条」を表のように作りました。
また、救援活動に不眠不休で取り組む方々への助言として、
短時間睡眠を応用すると良いことも付け加えます。
人間の大部分は標準的に毎夜一回連続した睡眠をとる単相性睡眠であり、独特のものです。
しかし他の多くのほ乳類(85% 以上)は多相性睡眠で、
特に危険な自然環境の中で生活している時には、超短時間の睡眠・覚醒パターンです。
すなわち、このような動物種の睡眠は24時間に数回分割されています。
緊急時や重大な危機的状況では、睡眠時間はかなり短縮されますが、
作業能力は高いことが必要とされます。

例として、
大西洋ヨット横断レースといった場合では4時間見張りをして30分眠ることを繰り返したクルーが
最も成績が良かったとの研究があります。
7時間眠っていたグループは最下位でした。

ただ、このようなスケジュールは専門的な訓練を受けた要員(救急救命士、宇宙飛行士、軍事要員)のみに適応できるものであり、一般の方は短時間の睡眠を1日に2~3回繰り返すのが良いと考えます。
疲れたら、たとえ30分でもよいから眠ることでその後の作業能力、注意力、安全性が格段に回復します。

避難所の10カ条 (久留米大学の内村直尚先生のアドバイスを参考)

1.プライバシーを守る
→ 周囲からいつも見えないように家族ごとについたてや布なので区切る。

2.夜間は照明を暗くする
→ アイマスクを配る。

3.夜間はできるだけ静かにする
→ 眠れない人や遅くまで起きている人のための別の部屋を準備する。
夜間は携帯を控えるか、別の部屋で話す。無理なら耳栓を配る。

4.入浴が最もよいが、無理ならシャワーや足浴ができるようにする

5.昼間はできるだけ光を浴びたり、身体を動かすようにして活動性を促す

6.可能であればビデオなどを流して気分転換をする

7.どうしても眠れない人は睡眠薬を使用してみるのもよい

8.眠る目的でのアルコールの飲用は控える

9.時計やカレンダーなど日時が確認できるものを身近に置く

10. 一度に長時間眠ろうとしても眠れないので、短時間睡眠を1日2~3回繰り返す。

m.z7

「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年7月16日」


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