愛媛県在住の五十八歳の女性、まゆみさん(仮名)のお話です。
まゆみさんの娘さんが帰省して、
一緒に眠っているときに起きたことです。
まゆみさんが急にバタバタと脚を動かし、
その後わーっと喜んだ声を上げました。
娘さんはとても驚いて、
お母さんを呼び起こしてみると、
「夢の中で、バスケットのドリブルをして、シュートして
うまくはいって喜んでいたところだったのよ」
とのことでした。
別の六十歳男性の方は、
睡眠中に大きな叫び声を上げる、歩く、
家具にぶつかって目が覚めるといったことがありました。
家族がとめると急にわれに帰るのですが、
それらの行動は覚えておらず、
夢を見ていたと話すのでした。
睡眠の病気は現在百七つが知られていますが、
このお二人は、その中の「レム睡眠行動障害」
というものです。
夢を見ているときには、脳は活動していますが、
筋肉はゆるみ身体が動かないようになっています。
しかし、高年齢者やパーキンソン病など神経系の病気では、
何かの拍子に筋肉を動かすスイッチが入り、
夢を見ている内容にそって身体が動いてしまうのです。
そういえば私自身も、
朝方夢うつつの中で、
となりで寝ている妻の顔を意図的に?
こんちくしょうと思ってたたいたことがあります。
大人になってから発症するねぼけで、
患者さんの大半は六十歳以上の男性です。
高齢者の約0.5%程度でおこります。
夢の中と同じ行動をするので、
夢の中で熊と戦っているつもりで、
隣で寝ている奥さんに暴力をふるったりした例もあります。
まゆみさんのように楽しい夢だと良いのですが、
普通は怖い夢の中で動いてしまうことが多いようです。
最初は寝言からはじまり、
そのうち手が動くようになり、
起き上がって暴れるようになります。
身体をゆすったり、
大きな声で起こすと目が覚めて異常な行動をしなくなります。
この病気は、パーキンソン病など神経系の病気の前駆症状として起こることがあるので、
専門医を受診することが大切です。
対処法としてはベッドを布団に換えて転落を防止する、
家具は周囲に置かないなどの寝室の安全を確保するとともに、
有効な治療薬があり、
ほとんどの患者さんが良くなりますので、
ぜひ相談してみてください。
今回の話の一部は
滋賀医科大学睡眠障害センターの今井眞先生にお聞きしました。
出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために22」 『京都新聞』 2008年8月26日