眠りながら記憶を整理

「彼の才能は眠っている」とは何もしていない、役に立たないと解釈されます。
しかし、私たちの脳は、睡眠中に休んでいるだけでなく、
もっと積極的な活動を行っています。

皆さんは「三年寝たろう」の話をご存じでしょうか。
全国には色々な寝たろうの話がありますが、
山口県の話は次のようなものです。

寝たろうは、干ばつで母親を亡くしてから三年間、寝続けました。
ある日、むっくり起き上がって村長を訪ね、
わらじを村人総出で作ってもらいました。
そのわらじを積んで、佐渡に船で向かったのです。

佐渡では金山で働く人達のわらじを、
無料で新しいわらじに交換したので、
あっという間に古いわらじが山積みです。
村人は古いわらじを集めて何の役に立つのかと訝りました。
しかし、持ち帰ったわらじを桶の水につけてると、
桶の底から金が取れたのです。
金鉱山ですから、人の古いわらじに金が付着していたのでしょう。

その集めた金で灌漑用水を作り、
村は以後、水不足になることなく豊かな村になったというお話です。
寝たろうはただ三年間寝ていたのではなく、
干ばつの村を救う方策について、
寝ながらいろいろと思索を巡らしていたと思われます。

睡眠中には、大脳が休んでいるだけでなく、
たいへん重要な生理機能が営まれています。
その一つが、記憶の整理・固定です。

睡眠中に、まぶたの下で眼がキョロキョロと動いているときがあります。
このときに起こすと、夢を見ていることが多く、
レム睡眠(Rapid Eye Movement sleep、急速眼球運動を伴った睡眠)とよばれています。
レム睡眠時には記憶や感情を整理し、
その固定・消去をしていると推測されています。

レム睡眠をとらないと技能の習得が悪く、
語学の習熟が遅れます。
英語をよく学習して成績の良かった学生と、
あまり成績のふるわなかった学生の眠りを比較したところ、
成績の良かった学生のレム睡眠は増えており、
成績の良くなかった学生のレム睡眠量には変化がなかったとの研究があります。
また、別の学習実験では、
レム睡眠を中断しなかった場合、
50%中断した場合、
100%中断した場合についてみると、
その程度に応じて記憶が悪くなり、
レム睡眠をまったく取らせない状態では記憶が半分程度になっていました。

お子さんの学習効果を上げるには、徹夜では効果が上がりません。
よく勉強した後に適切な睡眠をとることがとても大切です。

 

 

出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために⑦」 『京都新聞』 2008年5月13日


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