眠りと運動

 

ジムに通ったら

 

司法書士の熊谷さん(62歳、仮名)が、
夜の10時過ぎに東京出張から秋田駅に帰ってきたときのことです。

ふと新幹線駅に隣接したビルの明るさに目を奪われました。
なにごとだろうと思ってよく見ると、
多くの人がトレーニングマシーンに向かって活発に運動していたのです。
司法事務は、頭ばかりを使う仕事なので、疲れが溜まります。

熊谷さんは、頭ばかりで体を使っていないのが、
心身のバランスを悪くしているのではないかと思いました。

そこで、仕事が終わった後にそのスポーツジムに通うことにしました。
夜は会費も安いので好都合です。
運動をしたおかげで確かに体力はつき、体の線も締まってよかったのですが・・・。
なぜかそのころか、熟睡感がなく昼間にとても眠いのです。

昼間に良く動いた日は、夜ぐっすり眠れます。
適度な運動が良い睡眠につながることは皆さんご存じですね。
しかし、運動を不適切な時間に行うと睡眠が障害されて、良く眠れなくなることがあるのです。

体温は朝から徐々に上昇して、
その後午後4時ころから眠る直前にかけて、一日のなかで最も高くなります。
その後、体温の下降とともに眠気が増大し、入眠します。
この体温変化が、眠りの準備です。
冬山で遭難した時に「眠ると死ぬぞ」といわれますが、体温の低下が眠りを誘発するのです。

では、熊谷さんの眠気の話に戻ります。

夜遅い時間に運動して汗を流すとどうなりますか。
本来は眠くなり、体温が低下して眠りにつくはずのところに、
激しい運動で体温は低下するどころか上昇してしまいます。

さらに交感神経が刺激され、眠気はなくなってしまいます。

そのため、いつもの時刻に眠ろうとしても、
一度上がった体温を下げるのに時間を要し、寝つきが遅くなってしまいます。
朝は出勤のため、いつもの時間に起きなければならないので、結局は睡眠時間が短くなります。
そのため睡眠不足となり、昼間は眠くなっていたのです。
また、眠気を誘うホルモン「メラトニン」は、暗くならないと分泌されません。
夜9時以降に明るい環境のもとにいると、
メラトニンが分泌されなくなり眠れなくなるのは当然です。
足利工業大学の小林先生の研究で、
運動を朝や夕方にするより、
夕食後あまり遅くない時間帯(眠る2時間前くらい)にするのが良い睡眠にとって有効であると、
体温と睡眠の関係からわかっています。
また眠る前であれば、軽目のストレッチ等で体温を少し上げておくことも、
その後の体温低下がスムーズになり入眠に有効です。
その結果、寝つきが良くなるだけでなく、翌日の眠気も少なくなることが証明されています。

 

リズムを理解し

 

この忙しい現代社会、健康になろうとして、
かえって不適切な時間に運動をして、眠れなくなっている人を多く見かけます。
数年前に、減量のためのエアロビクス学習ビデオが流行りましたね。

主婦の川崎さん(50歳、仮名)も早速ビデオを購入して試したのですが、
その日からへんに興奮して寝つきが悪く、昼間に眠くなってしまいました。
主婦は日中とても忙しいので、
運動に時間がとれるのは家事が終ってからの寝る前のひと時だったからです。

眠りは誰にとっても大切なものです。
ただ、体のリズムや睡眠のメカニズムを理解して快眠ライフを送ってください。

 

「出典:宮崎総一郎 『全国商工新聞 』2012年10月1日」


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