明日のため、おやすみなさい

ひとりの青年がベッドに横たわっている。
眼は大きく見聞き、まっすぐ上を見ている。
彼の顔から15センチしか離れてないところでストロボを点滅させ、
光が見えたらスイッチを押すよう指示する。
まぶたは開いたままテープで固定してある。
光は平均6秒間隔で不規則に点滅するよう設定してある。

こうして数分間、
青年は光るたびにちゃんと反応していたが、
あるとき光が目に入ってもスイッチを押さなかった。
青年に聞いてみると「だって光らなかったから」
と答えた。
実際には彼は2秒間だけ眠っていたのだ。
この2秒間、
脳と外界を結ぶ扉は固く閉じられ、
まぶしい光さえも入れなかった
(講談社、ヒトはなぜ人生の三分の一も眠るのかWC Dements著より引用改編)。

ギリシャ神話では睡眠と死は夜の神から生まれた双子で、
睡眠は毎日起こる短い死と考えられていました。
しかし実際には、
睡眠は全く動かない、
死といったものではありません。

私たちはなぜ眠るのでしょうか。
答えは「明日により良く活動するための準備」です。
睡眠中には、成長ホルモンが多量に分泌され、
身体の成長、修復、疲労回復がなされます。
また、目や耳など。
五感から大量に入力された情報を、記憶・消去して、
翌朝から効率的に大脳が機能できるように準備しています。

かっとしてわけがわからなくなった時に「頭を冷やせ!」といわれますが、
コンピュータ同様、
熱くなって処理スピードが落ちた大脳を、
眠らせて冷却することが必要です。
寝不足では、
睡眠負債という借金を背負うことになります。
負債を長期にわたり貯め込んでしまうと、
私たちは負債に押し潰され病気になってしまうのです。

高等動物で大きく発達した大脳は眠ることで、
覚醒時に最大限に機能し今日の文明を作り上げることができました。
眠りは、より良い明日のために身体を準備する、
巧妙にプログラムされた素晴しい生理機構なのです。

今まで掲載したコラムをぜひ読み返していただき、
睡眠のメカニズムを正しく理解してください。
睡眠の借金なしで、
快適に眠り美しく目覚めましょう。
眠ればよいのですから、
今晩から実行できます!
人生寝たもの勝ちです。
おやすみなさい・・・。

 

出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために25」 『京都新聞』 2008年9月23日


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