明るい車内 狂う体内時計

京都の製薬会社で働いている鈴木部長(56)からの質問です。
「東京から京都へ単身赴任して十五年になります。
家族と過ごして、日曜日の夜に京都のマンションに帰ってくる生活です。
その際に気づいたのですが、
新幹線で戻った日はなぜか寝付きが悪いですね。
飛行機の最終便で戻るとすぐに眠れます。
なぜでしょうか?」

先日の新聞記事で
「春の訪れ感じる遺伝子を発見」
とありましたが、
ここ二十年で私たちの体内時計に関して多くのことがわかってきました。
体内時計は脳の奥深いところ(視床下部)にあります。
この時計は約二十四時間のリズムで、
私たちの身体を昼の活動に適した状態と夜の休息に適した状態に切り替えています。
網膜とつながっていて、眼から人った光の情報は体内時計に直接伝えられます。
強い光は体内時計のリズムを変化させます。
朝に強い光を浴びると体内時計のリズムが早まります。
逆に夕から夜に強い光を浴びると体内時計が遅れ、
眠くなる時刻が遅くなることが知られています。

体内時計のリズムを変化させるには
2500ルクス以上の強い光が必要といわれていました。
しかし、最近の研究ではそれほど強い光でなくても、
夜に長時間にわたって光を浴びていると
睡眠ホルモン(メラトニン)の分泌が抑制されることがわかってきました。
少し明るめの家庭の居間で300ルクス前後ですが、
この程度でも三十分以浴びているとメラトニン分泌が抑制されます。
私が実際に新幹線のぞみ(普通席)の座席で、
目に入ってくる照度を測定したところ530ルクスでした。
飛行機の最終便は明かりを落として運航節するので30ルクス以下です。

みなさん、おわかりでしょうか。
鈴木部長が新幹線で戻ってきたときに寝付きが悪い理由のひとつは、
新幹線の明るい照明が影響していたと推測できます。
ちなみにグリーン車では300ルクス、
韓国の新幹線KTXは30ルクスでした
(韓国の単身赴任族はよく眠れているかもしれませんね)。
コンビニや家電販売店では1500ルクス、
オフィスでは500~1000ルクスでした。

現在の私たちの周囲は明るすぎます。
そのことで、
体内時計が遅れて寝つきがわるくなっているかもしれません。
次回に続きます。

 

出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために③」 『京都新聞』 2008年4月15日


カテゴリー: 附属高等学校 【講義リスト】