夜間勤務の影響

現代社会では多くの人が「よい眠り」を忘れて、慢性的な睡眠不足に陥っています。
24時間営業のコンビニエンスストアが至る所で営業し、町は深夜も明かりがついています。
交通機関も日夜休まず動いています。
そこで働く深夜勤務の従業員が大勢います。
そうした人々は、昼間働いて夜になったら眠るという当然の生活ができないことは容易に想像できます。

 

データに表われ

 

夜間の交代勤務を月に3日以上行ってきた女性は、
展開の勤務だけを続けてきた女性に比ぺ、発がんリスクが高くなっているという研究があります。
勤続30年以上で乳がんが1.36倍、勤続15年以上で直腸がんが1.35倍、
勤続30年以上で子宮内膜がんは1.47倍にもリスクが高まっていたのです。
デンマークではすでに、週1回以上の夜勤を20年以上続け、
他に特別な要因がないのに乳がんにかかった女性を対象にした労災補償があります。
男性の場合、交代勤務の職場で働いている人は、
昼間に働く人に比べ、
前立腺がんになるリスクがなんと3倍も高くなるという日本での研究データもあります。

がんになるメカニズムはどのようなものでしょうか。
がん細胞は正常な細胞の変型です。
それががんとして表に出ないのは、生体防御機構である免疫が働いているからです。
私たちの体のなかでは毎日、がん細胞の発生と消滅が繰り返されています。
しかし、眠眠不足になると、この免疫機能が働かなくなり、
がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きも低下します。
そうして、がんが発症するリスクが高まることになるのです。

さらに、よい眠りをとらないとがんになるリスクが高まる原因がもうひとつあります。
それは、メラトニンと呼ばれる睡眠物質です。
メラトニンはすでに何度か説明しましたが、
夜暗くなると分泌されて眠りのリズムをコントロールし、よい眠りをもたらしてくれます。
夜通しでテレビやインターネットを見たり、交代勤務などで夜に照明を浴ぴると、
このメラトニンがつくられません。
そうするとよい眠りを得られず、免疫力が下がります。
さらに、このメラトニンには、がん細胞に対抗する抗腫瘍作用があることが分かっています。

 

修復機能働かず

 

私たちは寝ている間に、
昼間に障害された体のメンテナンスを行っているのです。
しかし、睡眠不足や不規則な生活では、メラトニンをはじめとしたホルモン分泌が不十分となり、
自己修復機能が発揮されません。

日本人の死因のトップはがんですが、それに続く2位が心臓病です。心臓病です。
また、日ごろの生活習慣を大きな原因としています。
そして、睡眠は生活習慣ですから、睡眠が心臓病と深く関わることになります。
交代勤務による弊害が、うつ病の発症リスクが高まるということも、別の調査で判明しています。

それでは、このようなホルモンバランスの変化を引き起こす交代制勤務など夜間に働く制度をなくすべきでしょうか?
残念ながら、生産性や社会機能を維持するために夜勤自体をなくすことはできません。
夜間の働き方としては昼夜交代で働く交代制勤務だけでなく夜間だけ働く「夜間勤務」があります。
この場合、交代制勤務に比べ体内時計の乱れは少なくて済むことが知られています。
交代制勤務を廃止し、
「昼間勤務」と「夜間勤務」の二つのみを採用すれば、
確かに体内時計への影響は少なくできるかもしれません。
しかし常に夜のみ働く夜間勤務では、
家族との触れ合いなど社会的生活を送ることへの影響がより大きいという問題が出てきます。

 

「出典:宮崎総一郎  『全国商工新聞 』2013年3月11日」


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