誕生月の変化 人工光の増加が影響?

秋田ヘ向かう飛行機で機内誌をめくっていて興味深い記事を見つけた。
記事は、およそ次のように書かれていた。

「グリーンランドの極北に住む人々は太陽のありがたさを身に染みて感じている。
二月中旬、今年になって初めて太陽が姿を見せる日(ヘキニアット)がやってきた。
太陽は二十分間だけしか顔を見せないが、
住民は小高い丘の上に集まって、その時を待っている。
太陽が地平線に少しだけだが顔を出すと『オッコー(暑いね)』と言いながら、
うれしそうに顔を見合わせている」

北大西洋の極地圏住民の誕生数を月別に示した研究報告があるが、
それによると1972年から79年までの誕生月は三月をピークに早生まれが多く、
七月から明らかに減少している。
しかし、80年以降は、それほど特徴的な変化は見られなくなっている。
これは、どういう訳であろうか。

昔、エスキモーの女性は冬になると生理が止まることが知られていた。
これは極寒の地に暮らす生物の適応と考えられる。
もし、冬に妊娠して十月ごろに子どもが生まれたら、どうなるであろうか。
すぐに、長い期間太陽に恵まれず、厳しい環境で暮らすことになる
エスキモーにとって、食料を調達しながら乳児を育てるのは非常に困難である。
しかし、早生まれであれば、
太陽の恩恵が受げられる季節が近く、子どもも育てやすい。

地球上の生命体は原則として太陽光エネルギーに大きく依存して生きている。
その生存、種の保存のためには自転(昼と夜)、
公転(四季)に適応していく必要がある。
生物は睡眠とも密接に関連するメラトニンというホルモンの作用で昼夜を区別し、
四季を感じ、成熟時期や繁殖期を決定している。
このメラトニンは強い光に当たると分泌されなくなる。
昔のエスキモーは冬になり暗くなることで、
メラトニンが分泌され生理が止まっていたのである(性腺刺激抑制作用)。

しかし、80年以降、極寒の地にも人工の光や食料が十分にもたらされたために
本来の生物リズムが乱され、誕生月にも変化が表れたのではないかと推察される。
文明の象徴ともいえる人工の光によって
ヒトは二十四時間活動できるようになったが、
知らないうちに悪影響も受けている。

 

出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議3」 『秋田魁新報』 2009年2月16日

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