脳を創り、身体を育む

私たちほなぜ眠るのでしょうか。
答えは「よりよく活動する」ためです。
コンピュータも酷使すると、
本体が熱くなって処理スピードが遅くなりますね。
睡眠がうまくとれないと脳の働くスピードが低下します。
皆さんも睡眠不足のときにはイライラしたり、
やる気がなくなるでしょう。

アメリカの高校生が1964年に
何時間寝ないでいられるか世界記録に挑戦しました。
その結果、
264時間12分起きていましたが、
最後は、ふらふらで幻が見えたりして、
頭はまったく働きませんでした。
挑戦後14時間40分ぐっすり眠って回復しました。
睡眠による回復能力はすばらしいですね。

実験でネズミを寝させないでいると、
ニ、三週間程度はなんとか生きつづけるのですが、
結局はみな死んでしまいます。
すこしくらいの睡眠不足はすぐには健康に影響するわけではありませんが、
長い間、睡眠不足でいると大きなつけを支払うことになります。
これを「睡眠負債」とよびます。

逆に寝だめもできません。
眠りは昼間の活動で酷使した脳や体が回復するために必要なのです。
コンピューターが熱くなったときに一度電源を切って冷やしますね。
しかし、寝てばかり、
つまりコンピューターを長く使わないでいても性能が良くなるわけではありません。

昔からのことわざで、
「寝る子は育つ」といいますね。
寝ているとき、
骨や筋肉を歳長させ、
体を修復するホルモン(成長ホルモン)が多量に分泌されます。
夜寝ないでいると、
このホルモンは十分分泌されません。
よい睡眠が取れないと、
身長が伸びなかったり、
体重減少になることがあります。

最近の研究で、
冬眠は本来の眠りとはいえないことがわかってきました。
冬眠は、消費エネルギーを少なくするために、
体温を下げているだけで、
実際の良い睡眠がとれているわけではありません。
いいかえると、
冬眠は睡眠不足の状態であり、
睡眠本来の機能(脳や体の修復、老廃物の解毒作用等)が果たせなくなります。

ジリスは代表的な冬眠動物ですが、
このリスは冬眠の最中に、
わざわざ一度起きて体温を上げ、すぐにぐっすりと深く眠ります。
たっぷり眠った後、
また体温を下げ、冬眠に戻るそうです。
冬眠のまま起きないでいると、
その動物は死んでしまうのです。
睡眠の重要性がおわかりいただけるでしょうか。

 

 

出典:宮崎総一郎 「快眠ライフのために⑩」 『京都新聞』 2008年6月3日

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