睡眠の役割 脳を休息させ修復も

昔々、圧屋の息子でいつも寝てばかりいるので「寝太郎」と呼ばれる男がいた。
三年三カ月寝て暮らしたある日のこと、
起き上がって父親に千石船と船いっぱいのわらじが欲しいと言った。
用意ができると、
寝太郎は千石船に乗って佐渡島ヘ。
佐渡では金山で働く人足たちのわらじを、無料で新品に交換したので、
あっという聞に古いわらじが山積みになった。
千石船を古いわらじでいっぱいにして、
寝太郎は家に戻った。
今度は大きなおけを作って、そこに水を張り、
古いわらじを投げ込んだ。
わらじを洗って水を捨てると、
底に沈んだ土の中に光るものがあった。
それは砂金であった。
寝太郎は手に入れた砂金で堰を作り、新しい水田を開いた。
以後、その村は大いに繁栄したとのことである。

この話は山口県の実話に基づく。
当時の佐渡島では一握りの土も持ち出すことが禁じられていたが、
寝太郎が寝ながら思索を巡らし、一計を案じたのである。

「彼の才能は眠っている」とは何もしていない、
役に立たないと解釈される。
しかし、私たちの脳は、睡眠中に休んでいるだけでなく、
もっと積極的な活動をしている。
かのアインシュタインは
十時間以上眠らないと調子が出ない長時間睡眠者の代表であるが、
相対性理論もベッドの中で思い付いたことが知られている。
また、DNA遺伝子のらせん構造発見のきっかけも、
朝方の夢うつつの中であったとのこと。

睡眠は、大脳の進化とともに発達してきた重要な生理機能である。
日本の睡眠研究のパイオニアである
井上昌次郎・東京医科歯科大名誉教授は、
「睡眠は脳をつくる、脳は睡眠をつくる、睡眠は脳を守り、修復し、賢くする」
と、睡眠の役割を明快に説明している。
一・五メートル以上もあるマグロの睡眠時間は
一回が五秒前後と非常に短い。
それに対しヒトは六~八時間の睡眠時闘が必要である。
マグロの脳は、
ビー玉程度の大きさしかないので短時間の睡眠で十分であり、
人の脳は千二百㌘以上あるため、
大脳を酷使した後は、
睡眠による休息、神経団路の修復が欠かせないと推測される。

睡眠不足のときに不愉快な気分や意欲低下になるのは、
大脳の機能が低下しているために休息が要求されている状態である。
また、睡眠は記憶の固定、
消去に大切であることは「練習後の睡眠 飛躍的に技術が向上」で紹介した。
体を修復する成長ホルモンは、
寝始めの深い睡眠時に多量に分泌される。
睡眠は、活動と休息のリズムをもとに、
翌日、よりよく活動するために高度に発達した生理機能である。

 

出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議13」 『秋田魁新報』 2009年5月4日

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