寝酒 朝の目覚めに悪影響

ある患者さんのお話である。
六十八歳の佐藤一彦さん(仮名)は寝ているときにいびきがひどく、
時折呼吸が止まるとのことで受診された。
お酒を飲むといびきがひどくなるのは自分でも分かっているのだが
飲まないと何となく寝付きが悪く、
つい深酒になっているという。
朝の目覚めも悪いとのことだった。
そこで、佐藤さんに寝酒を飲まないで眠るようにお伝えした。

一カ月後、佐藤さんが現れた。
「最近はできるだけ寝酒をやめるようにしている。
初めは夜中の一時ごろまで寝付けないときもあったが、
飲まないときの方が目覚めがいいし、熟睡感がある。
酒を飲んでいたときは寝付きは良かったが目覚めが悪かった」
と、とても元気な様子。
「そうでしょう。酒は寝付きを良くするように思われていますが、
実はいびきをひどくし、さらには睡眠を悪くするのですよ」
と話すと、
「寝酒が悪いことを、もっと早く分かっていればなあ」
と言って病院を後にされた。

わが国では、眠れないときには睡眠薬を飲むより、
寝酒を口にして眠る方が安全という誤った認識が一般的ではないだろうか。
微量のアルコール摂取は覚せい作用をもたらし愉快な気分にさせる。
さらに、アルコール量が一定以上になると眠くなる。
しばらくしてアルコール血中濃度が低下すると、
また覚せい作用が出てくるため、
興奮して眠れなくなる。
深酒をしたときに早朝に目が覚め、なぜかそれ以上眠れなかった経験がある人も多いだろう

また、アルコールには利尿作用があるので、
トイレに行くことで睡眠は分断され睡眠障害を招く。
そのため、アルコールを飲んですっきりと目が覚めたようでも睡眠不足で疲れて、
その夜は早々にベッドに入ってしまうのだ。

喫煙も睡眠を妨げる。
眠る前に一服すると気持ちが落ち着き、
寝付きが良くなるように感じる人がいるかもしれない。
たばこに含まれるニコチンには喫煙直後にリラックスさせる効果がある。
しかし、その後は逆に覚せい作用が数時間続くため、
寝付きを悪くする。
ヘビースモーカーの場合、
ニコチン切れも中途覚せいを引き起こす原因になる。

居酒屋などで酒を飲みながら喫煙する光景をよく見る。
しかし、アルコールで眠くなったところをニコチンで覚せいさせていることになり、
睡眠を二重に悪くする。
飲酒や喫煙は就寝三~四時間前までに、
適量を楽しむ程度にとどめておくことをお勧めする。

 

出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議11」 『秋田魁新報』 2009年4月20日

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