より良い明日へ 眠りで日本を元気に

ヒトは人生の三分の一を眠って過ごす。
昔から「寝る子は育つ」などといわれてきたように、眠りにはさまざまな効用がある。
しかし、二十四時間社会となった日本では約三人に一人が眠りにかかわる問題を抱えている。
新幹線の運転士やパイロットが乗務中に眠ったり、
甚大な環境破壊を招いた巨大タンカー座礁事故では
原因として航海土の睡眠不足が指摘されている。
昨年二月のイージス艦衝突事故も眠気のリズムから事故要因を説明できる。

私たちは、なぜ眠るのか。
2004(平成十六)年、琵琶湖近くにキャンパスを構える滋賀医科大に、
日本で初めて睡眠学講座が開設された。
睡眠のメカニズムを解き明かし(睡眠科学)、
百七種類に及ぶ睡眠の病気を治療し(睡眠医学)、
睡眠が関係する社会問題を解決する(睡眠社会学)のが狙いだ。

高度に発達したヒトの大脳は眠ることによって覚せい時に最大限に機能し、
今日の文明をつくり上げてきた。
眠りはより良い明日のために脳を休め、体を準備する、
巧妙にプログラムされた素晴らしい生理機構である。
寝不足だと「睡眠負債」という借金を背負うことになる。
負債を長期にわたりため込んでしまうと、
その負債に押しつぶされ病気になってしまう。

筆者はもともと耳鼻咽喉斜の医師として、
鼻詰まりやいびきと不眠の関係を秋田大医学部在籍時に研究していた。
子どもでは、へんとうが大きくなるといびきが生じたり、
睡眠中に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群になる。
よく眠れないために身長が伸びず、やせることもある。
しかし、このような子どもたちを適切に治療し、
楽に睡眠が取れるようにすると、
眠そうで元気のなかった顔が一転して健康的で明るい笑顔になる。
それを多々経験し喜びとしていた。
一歳のときに睡眠時無呼吸症候群で手術をしたお子さんは今、
立派に成人している。

睡眠負債を背負うことなく、
快適に眠り気持ち良く目覚めることが、
経済の停滞している日本を元気にする一つの手段となるのではないか。
さらに、早く眠れば電力の節約にもなり、エコにつながる。
眠ればよいだけなので今夜からでも実行できる。

 

出典:宮崎総一郎 「眠りの不思議6」 『秋田魁新報』 2009年3月9日

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